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『Bonjour Hero. 皆、今日の相手は現金輸送車を襲っている強盗犯よ。ハイウェイは現在警察(ポリス)によって封鎖されているから一般人が巻き込まれる可能性はないわ。さあ、存分にポイントを稼いで頂戴』



 夕刻――茜色に染まり始めたシュテルンビルト・中心街にある巨大モニターに、上空から見たハイウェイの光景が映し出される。
 突如切り替わった映像に路行く人々が次々に足を止め、モニターを見上げ、或いは手持ちの通信端末を覗き込む。
 皆が見ているのは、HERO TV――生中継(リアルタイム)で放映されるヒーロー・ショーだ。

『こちらは中央と郊外を結ぶ最上階層(ゴールドステージ)幹線道路、五番ハイウェイ! 現場では現在、強盗集団によって中央銀行の現金輸送車が取り囲まれておりますッ! 犯人たちは護衛(ガードマン)を打ち倒し運転手となにやらもみ合っている様子! さあ、果たしてヒーローたちは無事に運転手と、そして奪われた輸送車を取り返すことが出来るのかッ!』

 ハイウェイ上をヘリが旋回、事件の現場を映し出す。遠巻きに現金輸送車と、それを取り巻く犯人たちが映る。
「この金(カネ)は俺タチのもんだァ!!」
「見世物(ミセモン)じゃねぇぞコラァ!!!」
「ヒーロー共がナンボのもんじゃああああ!!!」
 拡声器による強盗犯たちの声明――という名の罵倒。どんどんエスカレートしていく内容――放送コードスレスレの発言に番組が慌てて予め用意していたVTR――ヒーローたちの紹介に移った。
 オン・エアに乗る映像は切り替わっているが、関係者側には今だ放送コード完全アウトの罵声が届いている。

「……ったく、言いたい放題言ってくれちゃってまあ」
 ハイウェイに隣接する支柱ビルの屋上――その眼下で繰り広げられている悪口雑言のオンパレードの中継に、呆れた声で肩をすくめる。
 アポロンメディア社で開発された最新モデルである白いヒーロースーツを身に纏った彼は、業界でもベテラン――悪く言えば下火のロートル――のヒーロー、ワイルドタイガーだ。
 野虎(ワイルドタイガー)の名に相応しい白虎(ホワイトタイガー)のフォルムを模した彼の背中に、不意に冷静な声が掛けられた。
「そんなことより。――あのままだと車を奪われて逃げられますよ」
「わーってるっての」
 どーすっか今考えてたとこだよ、と答えるタイガーに、どうだか、と隣に立ち並んだ影が肩をすくめた。
 白を基調としたスーツであるワイルドタイガーとは対照的に赤を基調としたヒーロースーツは、タイガーと同じアポロンメディア社の最新モデル。上げたマスクから覗く顔は随分と整っており、ヒーローというよりはモデルのようだ。
 彼はワイルドタイガーのパートナー、期待のルーキー。バーナビー・ブルックスJr。
 タイガーの隣に立ち、現場を見下ろしながらバーナビーが眉をひそめる。
「運転手を襲っている犯人を抑えるのは簡単ですが……その後が問題ですね」
 相手はNEXT能力者ではない。取り押さえるのは簡単だが、問題はその人数だ。
 運転手を襲っている犯人の他、めいめい武器を手にした男が三人。それなりに場数を踏んでいるのか、一見して立ち位置(フォーメーション)に隙がない。一人を取り押さえている間に後ろを取られてしまえばジ・エンドだ。
 タイガーがぐるりと辺りを見回す。封鎖されたハイウェイは他に車の陰はなく、辺りのビルの協力により準備された投光器が現金輸送車と犯人たちを照らしている。
 ふとその影に動くものを目に留め、タイガーははあ、と大きく息をつく。そしてやおらバーナビーを振り返った。
「よし、俺が先に行く! バニー、お前は後からだ!」
「なっ、ちょっと!?」
 バーナビーの反論を待たずタイガーは能力を発動させるとそのままだんっ! と地を蹴った。
 スーツがふわりと光を帯びる。
「おりゃああああああああああああ!!」
 威勢のいい雄叫びを上げて強盗グループに頭上から突っ込んでいくパートナーを見て、バーナビーは思わず片手で頭を抱える。
「……ったく、本当に、あの人は……」
 小さく毒づいて、バーナビーもまた能力を発動させると夜のハイウェイへと躍り出た。


















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