本文サンプル







 ふ、と。

 ――――……

「え?」

 歌、が。

 聞こえた。

「――……そんな馬鹿な」
 気のせいだろう。
 でなければ、建物の残骸が上げる悲鳴を、聞き間違えたか――だ。
 こんなところで『声』など、聞こえる筈がない。もしここに、自分たち以外の『生きるもの』がいるのだとすれば、まさにそれは奇跡としか、言いようがない。
 だが――
(僕は――その『奇跡』こそを、望んでいる……?)
 バチッ――と中身の飛び出た配線が火花を上げる。
 はっとしてブルーは振り向いた。

(電気が――まだ)
 どうして今まで気づかなかったのか。
 漏電している、ということは、つまりまだ電気が生きている箇所がある、ということだ。
 もしかすると、何らかの情報端末(コンピュータ)が生き残っているのかもしれない。
 もしかすると、今聞こえた『歌』はそれが上げた導きの――或いは警告の声(アラート)なのかもしれない。
 それでも――電気が生きているのであれば、もしかしたら緊急避難施設(シェルター)がまだ稼動しているのかも知れないのだ。
 あまりにも儚い希望だということはわかっている。だがそれでも、当て所なく廃墟をさ迷っていたブルーにとってそれは一縷の望みとなった。
 足元に絡みつく泥が盛大に跳ねるのにも構わず、ブルーは『声』がしたと思しき方へと駆け出していた。












「ここで待ってて」と言い残したきり、ジョミーは部屋の奥へと引っ込んでしまった。
 ジョミーに連れられてきた、この広間はどうやら遊戯室(プレイルーム)のようであった。
 先程ジョミーが歌を披露してくれた広間よりもさらに広い。
 ジョミーは普段は此処で遊んでいるのだという。
 見回してみると、成程確かに他の部屋よりは片付いている印象がある。
 小さな瓦礫は全て端に寄せられ、走り回っても転ぶ心配はなさそうだし、木床は独特の光沢を放っており、まるで
(運動場のようだな)
 と、突然背後から何かが飛来する気配に、ブルーは咄嗟に身を翻した。
 一拍遅れて飛んで来たモノを受け止める。それは
「……ボール?」
「わ、止められちゃった」
 物陰から現れたのは先程姿を消したジョミーだった。
「ジョミー、これは?」
「サッカーボールだよ。ブルー、知らないの?」
「サッカー……」
 受け止めたボールから思念を読み取る。どうやらこれは蹴るモノらしい、ということはわかった。
 とりあえず蹴ってみると、ボールはまるで見当違いの方向へぼてぼてと飛んでいった。
「最初は難しいよ」
 ジョミーはそう言うとまたボールを拾ってきて、ブルーに蹴り返した。















BACK






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送