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カーテンの隙間から差し込む日の光の眩しさに、バーナビーは重い瞼を押し上げた。
頭の中がぐらぐらと揺れている。天と地がひっくり返って、逆さまに吊られて振り回されているような気持ちの悪さ。
それでもどうにか身を起こす。素肌の上を掛けていた毛布がするりと滑り落ちていく。
ベッドとサイドテーブルを間接照明が照らす、シンプルで片付いた部屋。カーテンの隙間から漏れ出す光が、今が朝であることを指し示している。
どうやら自室で眠っていたらしいが、眠る前の記憶がない。
疲れていたのだろうか、昨夜のことを思い出そうとしてみるもののぐらぐら揺れる頭痛に邪魔されて上手く思い出せない。
かろうじて覚えているのは、出動要請にパートナーと二人で事件現場に赴いたこと。それ以降の記憶は、きれいさっぱりと言っていいほど抜け落ちている。
何か不測の事態に巻き込まれたか……嫌な感想を胸に抱きながら、揺れる脳の痛みを手で押さえつつどうにかベッドから抜け出した。
手早く着替えを済ませ、寝室を出る。
と、何やらキッチンの方から物音がすることに気付いた。
がたがた、かたん、という騒がしい音は、立て付けの悪い棚やシンクに放り出したままの食器が立てるような音ではない。
明らかに、誰かが何か動き回っているような音。
「……」
寝ぼけた意識に緊張が走る。
昨夜のことを覚えていないとはいえ、誰かを家の中へ招き入れてしまったというなら大いに問題だ。
しかもそれが自分の意思ではなく、勝手に侵入してきていたのだとしたら――
バーナビーの目が自然険しさを帯びる。
いずれにせよ、勝手をさせるわけにはいかない。
バーナビーはできる限り気配を消して、足音を立てないよう慎重にキッチンへと近付く。
幸い最高級のデザイナーズマンションの廊下はバーナビーの体重を受け止めても軋み一つ立てることはない。
そのままそっと歩を進め、静かにキッチンを覗き込んで――
「……えっ」
思わず、それまでの苦労を台無しにする声が出た。
バーナビーの声に、それまでキッチンと向き合っていた人物がひょい、と振り返る。
「おっ、やーっと起きたか! おはよ、バニー」
「虎徹さん!?」
思いもよらない姿に、バーナビーは頭痛すら忘れて大きな声を出していた。
そこにいるのは確かに自分のパートナーだ。何故か片手にフライパン、片手にケトルを手にしながらいつも通りの笑顔をこちらに向ける。
「なんだよ、そんなキョトンとした顔して? あ、朝飯準備してあるぜ」
「はぁ……ありがとうございます」
何故虎徹が朝食を用意しているのだろうか。
状況を把握できない頭でとりあえず礼を告げつつ、何となく流されるがままキッチン備え付けのテーブルに着いた。
訊きたいことは山ほどある。だが虎徹はそんなバーナビーの様子など気にする素振りもなく、だがさらっと知りたかったことを口にした。
「二日酔いとか、大丈夫か〜? お前めちゃくちゃふらふらだったもんなぁ」
「二日酔い……ふらふら……、ですか?」
「そうそう。歩くのもやっとだっただろ」
「すみません、全然覚えていないんですが、僕は昨日、呑んでたんですか?」
「だっ! 何お前それも覚えてねーの!? 二人で呑みに行ったんだって。いやぁでも珍しいな、バニーがそこまで泥酔すんの」
「そう……ですね」
虎徹の言葉にうなずきながら、改めて現状を把握する。
なるほどつまり自分は昨夜、虎徹と二人で呑んでいた際に深酒をしてそのまま寝込んでしまっていたらしい。覚えがないのも揺さぶるように襲ってくる頭痛もそのせいか。
そして朝から虎徹が自分の家にいるということは、彼は自分を家まで運んだあと帰らずに介抱してくれていたということだろう。
機嫌が良いのか鼻歌など歌いながらキッチンに向き合っている虎徹の背中に謝罪する。
「すみません……介抱させてしまったみたいで」
「ははっ、そンなの謝る必要ねーだろ? 何だよ今さら畏まって」
心底おかしそうに笑いながら、真っ白な皿へじゅうじゅう音を立てるフライパンの中身を盛り付ける。
「ほい目玉焼き。あー、パンも焼いてあっけど食うか?」
要らねーなら俺が食う。という虎徹に「なら、どうぞ」と返し、目玉焼きとコーヒーだけ所望する。
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