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 味が薄いだのどことなく安っぽいだの、三人が大衆居酒屋の酒の味に口々文句をつけつつも、次々運ばれてくるオリエンタルの一品料理を物珍しげに矯めつ眇めつしているうちに全員程良くアルコールが廻ってきていた。
 アルコールが廻れば自然と口も軽くなる。口が軽くなれば、彼の本音を引き出すのも難しくはないはずだ。
 今まではほんの前哨戦。ここからが本番である。

「それで、最近アンタたちはどうなの? タイガーとは上手くやっていけてる?」
 季節の彩り野菜がたっぷり入ったシーザーサラダをつつきつつ、単刀直入に訊いてくるネイサンの質問に苦笑しながら、バーナビーは「ええ、まあ……」と言葉を濁した。
「最初の頃よりかはずっと、上手いことやっていると思ってますよ」
「ナンか煮え切らないわネェ。それってまだ何か懸念があるってコト?」
「懸念というわけではないんですけど……」

 困ったように苦笑しつつ、店員がお代わりで運んできたワインを傾けながら次の言葉を捜すバーナビー。
 薄くピンクに色づいた液体がグラスの中で揺れている。
 憂いを含んだ表情を浮かべた彼が持てば、例え大衆向けの安物ロゼワインが入ったグラスでもまるで高級ワインのように見えてくるから不思議だ。

「正直……、まだちょっと遠いのかな、なんて思ってます」
「遠い?」
「まだアイツのことがよくわかんねぇ、ってコトか?」
 アントニオがレモンを絞った唐揚げを頬張りつつ眉をひそめる。一口噛むごとにじゅわりと肉汁が溢れ出してくる、この店イチ押しの一品だ。
「良くわからない……とも、ちょっと違うかな」
 アントニオの言葉にも、バーナビーは煮え切らない態度で首を傾げる。
「じゃあ何? お互いのポイントが遠いってコト?」
 ふわふわ出汁巻きたまごを摘みながら、ネイサン。
 口の中でとろけるような柔らかな食感と旨味が効いた出汁が気に入ったのか、二皿目である。
「ポイントはどうしようもねーだろ。アイツ、要領悪いし」
 隣室から「悪かったな!」という声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
「いえ。ポイントについてはあの人に引き立ててもらっている部分もありますし、差はあって当然ですから」
『……』
 バーナビーの言葉に思わず黙る。
 いけしゃあしゃあと言ってのける辺り、さすが大物(キングオブヒーロー)といったところだろうか。

 そんな二人の微妙な沈黙に気付いているのかいないのか、バーナビーは憂いを含んだため息をつきながら続けた。
「そうじゃなくて、なんというか……心の、距離と言いますか」
「心の距離?」
 鸚鵡返しに問うネイサンに小さく頷くが、そこから先が続かない。
 バーナビーはワインを一口、二口嚥下してもまだ言葉を探しあぐねているらしく、室内にしばらく沈黙が落ちる。

 グラスを空にして次のグラスを頼んでから、バーナビーはようやく言葉を続けた。
「なんて言うか、その……余所余所しいというか、変に気を遣われてる気がするんです」
 バーナビーの言葉に、アントニオとネイサンが顔を見合わせた。

「気を遣う?」
「アイツがか?」

「おいコラどういう意味だよ」
 猜疑心たっぷりな二人に思わずモニター越しに突っ込む虎徹。

 と、そこで突然話の流れをぶった切って襖が開いた。
「お待たせしましたー、タコのカルパッチョとグレープフルーツサワーです」
『タコ?』
 バーナビーとネイサンの声が被る。耳慣れない単語同士が予想外の組み合わせで来た。

「カルパッチョって、確か牛肉だったと思ったんですが」
「だから創作料理なんだって」





















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