「ねえ帝人くん」
呼ばれて相手を見れば、真面目な、それでいて楽しそうな顔をした相手。
こういうとき、この相手の話を真面目に取り合わないほうが身のためだ、と帝人は身をもって知っていた。
知ってはいたが……。
「なんですか?」
それが自分にとって良いとは言えないことでも関わりたいと思ってしまう自分はある種病気かもしれないと悩みつつ、それでも問い返してしまった。
問われたのが嬉しかったのか、楽しそうに言葉の先を続ける。
「オレは人間が好きだから優しくしているつもりだよ」
「本気で言っているんですか?」
その言葉に帝人は本気で顔をしかめた。
だが臨也は真面目な顔で頷いてみせる。
「もちろん。
 自殺したい子を辛い現実に引き止めたりしないし、自分で何とかしたいと言う子に手を貸したりはしない」
「それは優しさですか?」
楽しそうにすら聞こえる声で言われるそれは、人道的観点から見れば優しさとは言い難い。
「当然だよ。干渉されたくない人間にあえてこちらから干渉するなんて可哀想じゃないか」
けれど、折原臨也という人間の観点から言えば、干渉しないであげると言う優しさらしい。
帝人がそんなことを考えている間に臨也は更に言葉を続けていく。
「でも優しくするだけじゃ良くないだろう?時には優しさ以外も与えないとね」
「臨也さんの優しさがそれなら優しさ以外ってどうなるんですか?」
思わずツッコミを入れれば臨也は嬉しそうに唇の端をゆがめて笑った。
「そりゃあ、相手が望んでいないのに干渉してみるとか、
 相手が望まない暗闇へ落としてみるとか、分かりやすく苛めてみるとかさ。
 全員を苛めるのは難しいからオレが特に大好きな君を苛めてみようと思っているんだ」
「僕、ですか?」
いくら非日常的とはいえ、苛められるのはごめんだと感情のまま帝人は顔を歪めた。
が、それで引いてくれる相手ではなく、むしろ相手が嫌がるのを喜ぶ節すらある臨也はその反応すらも楽しんでいる。
「予想だけど断言してあげよう。
 オレが君を苛めたら君はオレの事でいっぱいになるよ。
 自分と敵対することにイラついて、でも無視できないんだ」
楽しそうにそんなことを断言されて帝人は少しイラついた。
「わかりませんよ。
 大体前もって言われていてそんな風に考えるはずが……」
だから視線を逸らしながら、そんなことにはならない、と言いかけて視線を戻した先にある臨也の表情を見て言葉を止めた。
「分かるさ。オレがそう仕向けるからね。
 それに君は自分の内側にいたものを切り離されるのを嫌うだろう?
 前もって言われたからって、オレ自身のことをよく知らない、
 逆にオレのマイナスな噂はよく知っている君は疑心暗鬼にもなる。
 本気で君の事がどうでも良くなったのか、
 あるいは嫌いになったんじゃないかと不安になってくる」
「そんな、ことは……」
再び視線を逸らしながら、帝人は言葉を詰まらせた。
「ほら、ない、って完全に否定できないじゃないか」
その通りだと、思ってしまったから。
その帝人の心のうちを理解しているように臨也はにこりと笑って見せる。
「ねえ帝人君。オレはね、人間のいろんな面が見たいんだ。
 気に入っている人間ならなおさらね。
 だから君の不利益になる事だって簡単にできる。
 オレを憎む君もまた、オレが見たいものの一つだからね」
つまり、憎まれてようと嫌われようと痛くもかゆくもない。
寧ろそれすらも喜んで受け入れる。
帝人の感情など、臨也に対する手段の何にもなりえないと告げている。
「こう言われたら無視できないだろう?
 だって、オレの言葉を、行動をきちんと把握しておかないと
 君や君の周りに被害が及ぶ可能性がある」
「そんな!?」
自分をいじめる、ということがそのまま自分の周囲にも被害が出る可能性があると知らされて帝人は大きく焦りを見せた。
「ほら、もう無視できなくなってる。
 まあ、無期限、と言うのじゃ可哀想だから期限は決めてあげるよ」
言って臨也は、いかにも考える℃d草で顎に手を当てた。
「そうだな……君がオレに泣き顔を晒すまで、って言うのはどうだい?
 君にもオレにも分かりやすい。
 君が泣きながらやめてくれ、助けてくれ、って言ってきたらにしよう。
 もちろん本気で追い詰められて見せた涙のときだけだけどね。
 君の自尊心を上回る何かでオレを求めたら、この遊びはやめて助けてあげるよ」
ニヤリ、という笑みはさてどちらかな。と言っているかのよう。
「ちなみにこのゲームの拒否権は君には無いよ。オレが勝手に始めるからね」
言葉に、帝人は覚悟を決めるしかなくなった。
だからと言って素直に頷く帝人ではない。
そもそもこのゲームは臨也が楽しいだけであって帝人には不利益しかないのだから。
「臨也さんがやめたくなったら、と言う選択肢は無いんですか?」
睨み上げれば臨也は目を見開いた後、その表情をそのまま笑いに変えた。
「面白い。オレが君の敵でいることをやめたくなるようにさせるのか」
うんうんと何度も頷き、声は何処までも楽しそうだ。
「いいよ。凄くいい。オレはそんな可能性はまったく考えていなかったけどゼロじゃない。
 やってみればいい。
 もしオレの方が折れるようなことがあったら君に忠誠を誓ってあげたって構わない。
 そうすれば君は一切対価を払うことなくこの折原臨也、つまりは俺が持っている、
 あるいは手に入れられる情報の全てを手にすることが出来る。
 君がこの池袋の王様になることだって出来るかもしれないね」
その言葉で対等、とまでは行かないかもしれないけれど、二人は同じ舞台に立った。
「分かりました。
 それで?いつからですか?」
決まったとなれば帝人の行動は早い。
開始の設定を尋ねれば、にこりとしながら予想外のスタート合図を告げられた。
「そうだね。愛を示すはずのキスから始まる戦いがあったら面白いと思わないかい?」
「は?」
言われた言葉が理解できなくて帝人はぽかんとしてしまう。
それを面白そうに眺めた後、手の届く距離まで歩み寄る。
「ああ、今この場で逃げればこのゲームが始まらないかもね。
 どうする?逃げても構わないよ?」
言いながら更に一歩。
軽く手を動かすだけで抱き込めそうな距離。
しかし臨也は手を動かさない。
帝人が何かしらの反応を示すのをまっているのだ。
「どうせ君が逃げたって追いかけて捕まえて無理やり始めるだけだからね」
楽しそうな声とは裏腹に目は獰猛に獲物を狩ろうとする闇が見える。
その闇に、しかし帝人は恐れるどころか…。
「まさか」
にこり、と笑うと帝人は臨也の胸倉をつかんで引き寄せた。
一瞬だけ重なる唇。
「ゲーム、開始ですよ」










湖朱萌蒼地様よりいただきました、あなたが神かッ…!!!
ありがとうございますv


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