○貴方の声が聞こえない○















「……やっぱりダメだ。無理だよ」
「ジョミー、諦めては駄目だ。もう一度、意識を集中して」
 促されてもう一度、ジョミーは大きく深呼吸した。
 それに合わせてソルジャーもすうと目を細める。

 だが――それからいくばくも経たないうちに、吸い込んだ息がため息に変わった。
 ソルジャーは細めていた目を開いて、星の宿る紅玉をジョミーに向ける。

「ジョミー」
「だから、僕には無理ですって……スクールでだっていつも集中力が足りないって言われてたし」
 言い訳めいた言葉をぶつぶつと呟くジョミーに、ソルジャーはやれやれとため息をつく。
 思念にしていない彼の心の声がまるで波紋のように伝わってくる。

 くやしい。くやしい。

 何度やってもうまく思念を読み取ることが出来ないこと。そして、思念を伝えることが出来ないこと。
 言葉にしたらこんなに簡単に伝えられるのに、どうして出来ないんだろう。

 そしてそれと同時にある、怯え。
 心を読まれること、考えをそのまま覗かれてしまうこと。
 思念をうまく操れないでいるジョミーは、だから同時に心の声の制御もすることが出来ない。
 必要な情報だけを拾って、伝える――それが出来ずにいるのだ。

 それを制御するための訓練なのだが、なかなかどうして上手くいかない。

 確かに本人の言うとおり、ジョミーには集中力に欠けた部分がある。
 集中力が欠けている――というよりは、注意力が散漫なのだ。
 いうなれば、ひとつの点に絞れずいくつもの点を見ようとしているような状態である。
 恐らくそれもひとつひとつきちんと習得していけば難なくこなせるようになるはずだ。それだけの資質は、ちゃんとあるのだから。

「次は出来るかもしれない。やってみなければわからないだろう?」
「……わかったよ」
 投げやりにそう言って、もう一度目を閉じる。
 呼吸を整え、意識を集中させて――ソルジャーはあることに気付いた。

 目を瞑ったままのジョミーは、『音』に反応を示している。
 視覚が奪われている分、聴覚が鋭くなっているのだ。

 ――青の間はそれでも他よりはずっと静かなのだが。
 それでも、水の音、衣擦れの音、空気の流れる音――小さな音はいくらでも存在する。
 それらに逐一反応しているのだ、これでは確かに集中できるはずもないだろう。
 ソルジャーはほんの少し首を傾げて、おもむろにジョミーを呼び寄せた。

「ジョミー、こちらに」
「……ブルー?」

 怪訝な顔をして近づいてきたジョミーの両耳を、ソルジャーは両手で覆い隠してしまった。
 顔が近い。それは互いの吐息がかかるほどで。
「なっ……」
 何を、と言おうとして、ジョミーは顔を歪ませた。
 発したはずの自分の声が、聞こえない。
 それは恐らく――ソルジャーに耳を塞がれたせいだ。
 本来手で耳を塞いだ程度で聴力が奪われることなどないが――ソルジャーが何かしたのであろうということは容易に想像がついて。

 ジョミーは声に出すのは諦めて、無言で小さく頭を振る。
 否定の意思表示だ。
 ソルジャーは困ったような微笑を浮かべた。

(ジョミー、声ではなく、思念を)

 突然直接脳裏に響いたのは、聞こえるはずのない、声。
 その瞬間ジョミーを襲ったのは純粋な『恐怖』だった。

 聞こえるはずのない声が、聞こえる。
 相手の心も自分の心もダイレクトに伝わる。
 読まれて、しまう。

「いっ……やだっ……!」
 耳を塞ぐソルジャーの手を振りほどこうとジョミーは大きく頭を振る。
 だがソルジャーの力は存外に強く、ただそのしなやかな指に髪が絡み付くだけだ。

(ジョミー、落ち着くんだ)
 語りかける声にますますジョミーは混乱する。
 声が聞こえていないせいで高低のばらついた細い悲鳴が喉から漏れている。

 こういう時、どうすれば落ち着くのか――紅玉の瞳を細めて、ソルジャーはジョミーの記憶を探った。



 ……視えるのは幼い頃の彼の姿。
 母親に抱きしめられている――
 泣きじゃくるジョミーの肩を抱いて、優しく背中を撫でる腕。
 そっと瞼に落とされた口付けがまるで魔法のように涙を奪ってしまう。
 言葉はない。慰めも、叱咤も。それでも。
 伝わるたったひとつの――



 ――だが今は生憎と両手が塞がっている。除けてしまえば訓練にならない。
 ソルジャーはほんの少し思案した。
 ジョミーは今だ恐慌から抜け出せていない。

(ジョミー)

 試しにもう一度語りかけてみる。
 だがそれは彼に届く前に弾き返されてしまった。
 恐怖が、拒絶が、心に強固な壁を作っているのだ。

(……仕方ない)
 ソルジャーは抵抗を押さえ付けるようにぐい、と強引に顔を引き寄せて、そのまま己の唇で彼のそれを塞いだ。
「――ッ!」
 ジョミーの双眸が驚きに見張られる。
 抗う力が急激に弱まっていく。
 それでも、手は放さない。両耳を塞いで、音を遮断して。……意識をひとつに向けて、たったひとつの想いを、思念にして、呟く。
 顔の角度を変え、口角を変える。
 少し開いた唇から覗く朱に己のそれを絡めれば、抵抗する力はもはやなしも同然になって。
 痺れた思考に心の壁はいともたやすく崩れていく。
 思念が流れ込んでいく。
「っ……ん……!」
 叫び疲れて嗄れた喉から漏れる吐息。
 瞳が一瞬驚きに見開かれて――そして蕩けるように、閉じられてく。

(――…………)

 その瞬間、思念として伝わってきた想いに、
 ソルジャーは柔らかく微笑を浮かべて、目を閉じた。





「あんなの、ずるいっ」
「どうして?ちゃんと出来ただろう」
 すっかり機嫌を急降下させてしまったジョミーに対し、ソルジャーはどこか楽しそうに応える。
 ジョミーは恨めしげな視線をソルジャーに向けた。
「……無理矢理っ、ブルーがッ、やったんじゃないかっ」
 恐慌に陥ったジョミーの意識を集中させるために、ソルジャーは彼の耳だけでなく唇まで塞いでしまった。
 そしてそのまま、ジョミーに読み取らせるべく思念を送った。

 ――たった一言、「好きだ」と。それだけ。

 声にする以上に心に直接響いてくるその言葉は効果覿面で。
 口が塞がれているために言葉に出来ない想いをジョミーもまた無意識に思念に乗せた。
 受け取った想いに応えたいと、願ったからだ。
 返した言葉は、返した想いは。

「――〜〜っ」

 無意識に思い出してしまい顔を真っ赤にするジョミーに、ソルジャーはまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

「この方法の方が伝わりやすいなら、慣れるまで暫くはこうして訓練をしようか」
「はッ!?えっ、何言って」
「嫌かい?」
「いッ、うっ、ううう……」
 自分の心は結局思念となってダイレクトに伝わってしまっているから、はぐらかす事も出来ずに尻すぼみの唸り声しか出てこない。
 だがジョミーは暫くその状態で唸った後、不意にポツリ、と一言呟いた。

「……やっぱり、嫌だ」
「どうして」


「……声が、聞きたいから」

 そのままぷいとそっぽを向いてしまったジョミーに、ソルジャーはくすりと微笑った。

「全く――我が儘だな、君は」










END





にしゅーかんかけても書けないモンは書けないし、三日でも萌があればこうなるという証明(なんじゃそりゃ)
マジで二週間近くうだうだ悩んでいたブツがあるのですが、それをすぱっと切り捨ててこっち書いたらこんなんなりましたYO!うーん微妙微妙。
ビミョーに整合性取れてないのはカンベンしてください…べろちゅー書きたかっただけなの(最悪だ!)もっとやってやればよかったかもですがもっとやると収集つかなくなるからNE!
しかしまぁ萌語りというのはすさまじいですね!ひとりモンモンとしてて電話して萌語ったらネタの妖精さんが来るのだからもういっそ存分に語らせてくれ。


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