不意にメインデッキに伝わってきた思念に、ゼル機関長は平素から滅多に消えない眉間の皺をさらに深くした。
 この幼く、また制されることのない――悪く言えば『粗野』な思念は、間違いない、(ここ)に来てまだ日の浅い子供――ジョミー・マーキス・シンのものだ。
 まるで凪いだ水面を手のひらで叩いたような感情の波にうなり声を上げる。

 その、波打つようなジョミーの感情を受けて、同じくその場に居た――とはいっても実体ではない、思念体だ――ソルジャー・ブルーはつと面を上げ、伝わる心の持ち主を思う。

 今は確かハーレイを相手に精神修養の訓練をしている筈だ。
 上手くいかずに癇癪を起こしてしまったのだろう、流れる荒々しい感情の波は彼の心を隠すことなく伝えてくる。
 奔放に咲き乱れる感情の華。
 臆さぬ心に思わず笑みを浮かべる。

「……またか」
 隣から、これ見よがしのため息に乗って流れてくるのは呆れと隠しようもない怒気。
 ソルジャーは紅玉の瞳をゼルに向けた。
 視線の先、ゼルの眉間にはすっかり解けぬ深い皺。先刻の更に倍。

「貴方が感情を表に出すとは、珍しい」
「それは皮肉ですかな?」
「いいえ」

 ほんの少し目を細め、ソルジャーはそれ以上何も言わない。
 それにゼルはやれやれ、と言わんばかりの大仰なため息をつきながら首を振る。
「全く……思念は確かに強い。だがそれを全く使いこなせておらぬ。心を遮蔽することも出来ぬ。未熟以前の問題だ」
 言外に勝手をしたソルジャーを責めている。本当にあの子供を後継とするつもりかと、言葉にせずともそう言っている。
「強すぎる思念も操れねば害にしかならぬ」
 だがソルジャーは意に介した様子もなく、ただ少し首を傾げただけだ。
 そこに一抹の不安も懸念も後悔も何もない。

「僕等の宵は長すぎたのだよ」
 そう言って、ソルジャー・ブルーは微笑んだ。
 端から見れば突拍子もないであろう台詞にゼルはぴくりと眉根を寄せる。
「あまりに長い夜……闇に慣れた目に太陽は眩ゆ過ぎた、それだけで」

 それはあまりにも鮮やかな光であるからこそ。

「ほう?」
 ゼルは頬を引き攣らせるようにして笑みを刷く。
 だが、その目は笑っていない。
「私には、ソルジャー。貴方が何を仰っておるのか量りかねますな」
「ジョミー、彼こそが太陽だと言っている」
「太陽?」
 あまりにも淀みなく明瞭とした答えに、ゼルは思わずひくりと喉を鳴らした。
「核を抱え込んで我々に燃え尽きよ、と?」
 自然と声に刺が宿る。
 言葉に込められた思念(こころ)はたやすく他者を傷つける。
 だがソルジャーは言葉の刺をそよ風のようにさらりと受け流し、また微笑う。
「陽の光に弱いと見える、ゼル機関長」
「生憎野蛮な人間のような身体を持っておらんでな」
 皮肉の応酬である。
「我々ミュウに太陽はちと強すぎるのではないのかね?」
「夜の月だけでは歩けぬ道もあるだろう」

 蒼月色の髪が揺れる。

 ふ、と差し伸べられた手の先は遙か彼方。
 指し示される道。

「あるがままの姿は確かにあまりにも眩く、熱いかも知れない。けれど」

 紅玉の双眸を細めて描くは輝金の色彩(きんのいろ)。

 生命の強さと輝きに満ち溢れた光。

「その美しさと強さは何にも代えがたい」
「ふむ?」
 無言のうちにソルジャーの行動を非難していたゼルのその目に、初めて怒りと呆れ以外の感情が浮かんだ。
 からかうような、値踏むような、複雑なそれ。

 心を、真意を、読みかねている。

 ――不意に、艦(ふね)を包む空気が変わった。
 ぴりぴりと肌を刺すような怒りの空気から、ふわり優しく包み込むような暖かいそれに。

 ――それは、ジョミーの心そのものだ。
 誰においても優しく、暖かい――

 ゼルはひとつ、諦めともつかぬような大きなため息を一つついた。
「随分とあの子供に御執心ですな、ソルジャー?」

 揶喩するような言葉に、ソルジャー・ブルーは珍しく、挑戦的な笑みを浮かべた。

「生きるものは皆、あの輝きを――太陽を求めずにはいられないのだよ」














○太陽に焦がれる○











END





じさまがじさまに孫自慢(自爆)
個人的にゼル書けて激しく満足。シャングリラの長メンバー皆大好きじゃー。いずれ他キャラも交えたいものよ。
あーでも文体がぼろぼろですね。やはり眠いときに書くとロクなことにならん。


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