「おっ、ジョミー!ちょうどいいところに来たな!」
「えっ、ちょうどいいって?」
「どーせ今日の訓練は終わっんだろ?なら少し付き合ってけよ!」
「いや、あの……」



* * * * *



 満たされた蒼水にゆらり、波紋が広がる。


 少しずつ近づいてくる足音に、ソルジャーはうっすらと目を開けた。
 身に纏う気配からするに、どうやら今は機嫌が良いらしい。

 細い腕に力を入れて、ゆっくりと寝台に身を起こす。

 顔を上げると、そこには春の陽射しの化身のような、暖かな色彩をその身に宿した少年が一人、こちらを向いて立っていた。
 身を起こしたソルジャーと目が合い、ふわり微笑う。
 ――どうやら本当に機嫌が良いようだ。平素なら、起き上がろうとしようものなら烈火の如く怒りだすというのに。

「おはよう、ジョミー」

 久方振りに正面から見据えた愛し子に柔らかな微笑を返す。

 だがジョミーは何も言わず、ぽふっ。と軽い音と共に突然ソルジャーに抱き着いた。
「ジョミー?」
「……ん」
 呼び掛けにもけだるげな返答しか返ってこない。
 甘え求めるような仕草で二、三頭を振って、そのまま黙り込んでしまった。

 ……何かがおかしい。
 平素(いつも)のジョミーではない。

 何か言いたいことがあるときや構ってほしいときは、ベッドの横に座り込んで話すのが常だ。
 抱きつかれるのは願ってもないが、だがやはり顔が見えなくては意味がない。

 しかも、だ。
 普段ははっきりとしたジョミーの思念が、だが今はもやもやとまるで霧のように形が定まらず、上手く読み取ることができない。
 こんなにも近いのに、何故?
 埋められた顔がちらりとこちらを上目使いに見遣る。

「……ブルー……」

 ――甘い蒸留酒(アルコオル)の香りがつんと鼻を突いた。

(これは……酔っているのか)
「酔ってないっ」

 即座に反応が返ってくる。

 ソルジャーは目を瞬かせた。
 普段ならば読み取られることのないささやかな思考があっさり読み取られてしまったのだ。
 酒はあらゆるリミッターを緩くしてしまうものだから、普段無意識のうちにセーブしている力まで開放してしまっているのかも知れない。

 だとすれば――
(――……このままでは少し、危険か)
 今はまだ落ち着いているが、これがもし何かのきっかけで暴走するようなことがあれば――

「……うう」
 ぴったり押し付けた頭を擦るように押し付ける様はまるで猫のようだ。
 自ら擦り寄ってくるなどという、平素ならば絶対に有り得ない状況に……思わず目許が緩んでしまう。
 甘え上手の大きな猫の頭を優しく撫でてやると、気持ち良かったのか目を細めて頬を擦り寄せてくる。
 暖かく、そして柔らかい。

 色白だが、病的ではない健康的な肌。
 それは彼が十四年間、健やかに過ごしてきた証拠だ。
 と――不意にジョミーが顔を上げる。
 眉間には先程まではなかったはずの小さなシワがあった。

「ジョミー?」
「ブルーはぁ……ボクの身体が目当てだったの?」

 ……

「は」

 思わず気の抜けた声が出た。

「ジ……ジョミー……?」
 狼狽えるソルジャーを他所にジョミーの眉間のシワはますます深くなる。
「ブルーはぁ……ボクがケンコーだったからぁ、ボクにしたの……?」
 口調こそ甘く気だるげだが、そこに宿る言葉には明らかに刺がある。

 遠慮なくぐさぐさと突き刺さる視線。
 いつもの照れや恥じらいがないのは喜ばしいのだが、代わり含まれるのが刺では居た堪れないことこの上ない。
 兎も角すっかり斜めになった機嫌をどうにかしなければと、どうにかフォローの言葉を探していると――

 ふと。
 睨み付けるような目が、ゆらり、揺らいだ。

 曇る光。

「そーじゃ、なかったら……」

 定まらない思念の中にゆらゆらとたゆたうのは――

 ……不安、だ。

「べつの人、すきになったの……?」

 腕を掴む力が少しだけ強くなる。
 その手がほんの僅か震えているのは、決して気のせいなどではないだろう。

「ボクはぁ……ブルーがすき、だよ?」

 たゆたう不安にそれでも揺らぐことのない一途な想いが、真っ直ぐにぶつかってくる。

「すごく、すごく、すき、だよ?」

 普段なら口にしないようなストレートな言葉を、何度も何度も唇に乗せる。

「……ねぇ……ルー、は……?」

 くしゃり、顔を歪ませて。

「……ねぇ」

 いつも以上に触れる手。
 触れた先から心を読み取ろうとしているようで。

 いつもは絶対に見せない甘えた顔。
 覆い隠していた不満や欲求がカタチをとって現れて。

 彼が求めているのは、たったひとつ。

「……すき、って、……いって」



 ソルジャーは小さく、小さく息をつく。

 ぴくり、とジョミーの身体が小さく震えた。

「……っ、ブルー?」

 呼びかけには応えない。
 その代わり、ソルジャーはぴったりとくっついた身体にそうと腕を回して、抱きしめた。
 壊れないように、優しく。
 離さないように、強く。

「……う、……あ……?」
 胡乱げな視線を向けるジョミーの耳元で、そっと囁く。
 こんなことを改めて言うなんて、きっと僕も酔ってしまったのだろう、なんて些細なことを思いながら。

「……ジョミー、君が良かったんだ」
 健全なるはその心。
 健やかにして美しい心。

 一目見て、その心に、惹かれた。
 その輝きに、どうしようもなく惹かれたのだ。

「僕が君を選んだから好き――なのではないよ。
ジョミー、君が君だから、好きなんだ」

「ほんと、に?」
「勿論だ」

 力を孕んだ言葉。
 ただしそれは思念でも何でもない、単純にして明快な――想い。

 顔を寄せる。
 真っ直ぐに瞳を覗く。
 逸らさない。逸らさせたりしない。
 思念よりも強い強い想いを乗せたたった一言が、余す事なく伝わるように。


「好きだよ」
「ボクのほうが……すきだもん」
「負けないよ」
「うー……」

 不満げな唸り声の中に含まれるのは隠しようもない喜びの色で。
 伝わってくる制御のきかない喜びにソルジャーが微笑むと、ジョミーは真っ赤にした顔を隠すように顔をソルジャーの胸に埋めて、そのまま動かなくなってしまった。



「ジョミー?」

 返事はなかった。
 代わりに聞こえてきたのは、安らかな、あまりにも無防備な規則正しい吐息。
 ソルジャーは柔らかな微笑を浮かべると、猫のように丸くなった身体をそうと抱きしめ、小さく小さく囁いた。



「……おやすみ」





 次の日――
 目覚めたらなぜか青の間にいて、しかもソルジャーと添い寝しているという状況にジョミーが悲鳴を上げたのは、またべつの話。



 ――その後、「たまにならばいいんじゃないか」と言うソルジャーを他所に『ジョミー禁酒令』が出されたのも、また別の話である。














○酒は飲んでも呑まれるな…?○











END





未成年に酒飲ましちゃいけませんっ(笑)
しかし…これもヘンに熟成したせいかビミョウですねっ。書くこっちが辛いって台詞吐くんじゃヌェーよって感じですねっ。オチっつーかハナシの核が似通っちゃってますねッ。うーんアタシ時間かけて書くの向いてない。萌はイキオイ!←
しかしまぁ、なんかウチが書くとそこはかとなくジョミーたんツンデレなんですよね(笑)なーずぇー…


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