探しても探しても見つからない。
 こんなに探しているのに。


『一体どこに行ったんだろう?』







○Missing Cat○















「えっ?」
 予期せず重なった声に驚いて振り向くと、そこに居たのはまだ幼さの抜けない少女だった。
 無邪気な笑顔がジョミーに向けられる。

「あっ、ジョミー!」
「やあ、カリナ。何か探してるの?」
「うん、あのね、ベルが居なくなっちゃったの」
「ベル?」
「猫よ。わたしが世話してるの」
 へぇ、とジョミーが感心した声を上げるとカリナははにかんだ笑顔を浮かべた。嬉しかったのだろう。
 だがそれもすぐに泣きそうなそれに変わる。
「今朝まで部屋に居たんだけど、気付いたらいなくなってて……」
 行けるとしてもこの艦の中だけだろうけれど、それでももし隙間に入り込んだりして動けなくなってたら……不安だけが募っていく。
 カリナははっと顔を上げた。
「そうだわジョミー、お願い、一緒に探して!」
「えっ?」
「ジョミーと一緒なら見つかりそうな気がするの」
 何の根拠もなさそうな発言だが、カリナの目には期待と希望の光が宿っていた。真実そう思っているのだ。
 だがすぐに何かに気付いたようにその瞳を翳らせた。
「あっ、……でもジョミーも何か探していたのよね?」
「え?ああ、うん」
「そうしたら、邪魔したらダメよね……」
 しゅん、としぼんでしまったカリナにジョミーはほんの少し逡巡する。
 こんなに純真な信頼に応えないわけにもいかないだろう。

 それに――あの姿を探し始めてから随分経つというのに、その姿の欠片さえ見当たらないのだ。
 こんなに探しているのに。

 いつもふと現れてはふと消えてしまって。

 今だってそうだ。絶対安静と言い含めておいたのに、青の間はもぬけの殻で。
 こうやって探しているのに、見つからない。

 そろそろ限界だった。

「大丈夫、構わないよ」
「本当!?でも……」
「いいんだ。たまには少しくらい待たせたって、構いやしないさ」
 どうせいつもこちらが追いかけて追いかけて追いかけるだけなのだから。



 こうしてジョミーとカリナのにわか探偵コンビが誕生したのだった。





「さて、と」
 やって来たのは艦内で最も広い広場。
 カリナが普段そこによくベルを連れていく、という言に従ってまずはそこから探そうということになったのだった。


 ――のだが。

「見つからないね……」
「うん……どこに行っちゃったんだろう……」
 広場から居住区へ向かう道をとぼとぼ歩きながら、二人は同時にため息をついた。


 その場にいた子供たちに尋ねてみても返ってくる答えは「知らない、見てない」の一点張り。
 何の痕跡も見つからず、結局「ここには居ない」という結論になったのだった。
 その場にいた子供たちに見つけたら知らせるように言って、二人は探索の範囲を広げた。

 必ず通るであろうルートを根気強く探しながら、珍しくカリナがぶつぶつと文句を言っている。
「もうっ……ベルったら……見つけたらうんと叱ってやらなきゃ……」
「そんなにやんちゃなのかい?」
 ジョミーの問いにカリナはふるふると首を振った。
「普段はとっても温順しいのよ。けど時々こうやっていたずらするの。困っちゃう」

 怒ったように頬を膨らませる少女が微笑ましく、ジョミーは小さく笑う。
「きっと、君の気を引きたくて仕方ないんだね」
 カリナのことが好きだから、構って欲しくて仕方がないんだよ。とジョミーが言うと、カリナは膨らませていた頬をしぼませて眉尻を下げる。
 くるくる百面相である。
「うん……ホントはね、もっといっぱい遊んであげたいの。だけど……」

 彼女たちにも役割があり、また学ぶべきことも多い。
 いくら只人よりも長寿とはいえ、今日と言う日、今この瞬間は皆平等なのだ。
 それがわかっているから、ジョミーは敢えて笑顔で言った。

「ならせめて、見つけたら思い切り抱きしめてあげるといいよ」
 触れることで伝わるのは言葉以上のものだと知っている。
 それはどんな存在であっても変わりはしないだろう。――抱きしめられたときの腕のぬくもり、そこから伝わる暖かさ。

「ぎゅー、って?」
「そう、そうしたら、きっとわかってくれるさ」
 こくん、と首を傾げていたカリナだったが、ジョミーの笑顔につられるようにして微笑みを浮かべる。
「ジョミーもそうしてもらったら、嬉しかった?」
「えッ!?」
 ジョミーは思わず裏返った声を上げてしまった。
(そうしてもらったって、あれは別にそんな……)
 内心慌てるジョミーにカリナは不思議そうな顔をする。
「ママにそうしてもらったら、嬉しかったのよね?」
「えっ……あっ、ああ、勿論だよ」
「そっか……うん、私もやってみるわ!」
 向けられた笑顔に笑顔で返しながら、ジョミーはこっそりため息をついてしまった。
 どうしていつだって思い出すのは彼のことなのだ。

 抱きしめられたときの腕のぬくもり、そこから伝わる暖かさ、……其処に居るという、確かな事実。

 傍に居たいと願っても、どうしていつだって傍に居られるわけじゃない。
 だからこんなに会いたいのに、けれど時折気まぐれにふと消えてしまう。

 こんなに焦がれているのに。
 伝わらないの?

 伝えたい想いはこんなにも募っているのに。



「うーん……他に居そうなところ、って……ジョミー、何かないかしら?」
「えっ、え!?」
「ジョミーってば、なにか考えごと?」
「えっと、いやその」
 ぐぐっと見上げる視線にジョミーは慌てて手を振った。

「ほら、ベルが行きそうな場所を考えてたんだよ。お気に入りの場所とか、モノとか、心当たりはないのかい?」
 問われてカリナはしばし考え込む。
「うーん……あ、もしかしたら……!!」
 ふっと顔を上げた少女はただ一点を見つめていた。
 かと思うとそのまま走り出す。

「こっち!」

 居住区を反対に進み、廊下を抜け、部屋と部屋の間、細い小径のようなところを進んでいく。
 こんな径があったのか、とジョミーは妙に感心した。
 すいすい進む背中を見失わないように追いかけてかけて行くうち、唐突に視界が開ける。
 思わずジョミーは目を細めて――

「うわ……」

 ――そこには緑が広がっていた。
 ちょっとした公園ほどもあるだろうか。
 今まで色々と艦を見てまわってきたが、そこは初めて見る場所だった。

「ここって……」
「あっ!!」
 嬉しそうな声に視線を戻すと、ちょうどカリナが走っていくところだった。
 その先に居たのは、

「ベルッッ!!」

 真白な毛並みの猫を抱いた、

「――ブルー……」

「やっと見つけてくれたね?」
 そう言って、儚い微笑みを向けた。

「ソルジャー・ブルー!ベルの相手してくれてたの?」
「どうやら独りで迷ってしまっていたようだったからね。此処に君が居ると思ったようだよ」

「もうっ、ベルってば……!!」
 ソルジャーの手から猫を受け取ると、カリナは先刻の言葉通りぎゅうと抱きしめる。
 それ以上もう言葉はいらないだろう。

 視線を戻す。
 探していたはずの存在が、そこに居る。
 そっと近づく。間違いようもない、本人だった。

「あんまり遅いから、諦めてしまったのかと思っていた」
「そんなワケッ……」
 でも、少しぐらい待たせたって構わないと思ったのも事実で。

「あんなにっ、言ったのに、……また、居ないから……」
 言いたいことはそれだけじゃないのに。そんなことじゃないのに。
 言葉にならない。

 ソルジャーは何も言わない。ただ、何も言わぬままに、

 そのまますっぽりと腕の中にジョミーを包んでしまった。

「ッ、ブルーッ」
 抗議の声など届きはしない。
 伝わってくる熱が、ぬくもりが、かき消してしまう。

 言葉よりも雄弁に伝わってくる想い、それは。


「……ああ、ジョミー、君も同じなんだね」
「……ッ……」
 当たり前だろ、と思う。言葉にしなくても、それは伝わる。

 一緒に居たいなんて、傍に居たいなんて、そんなこと、言わなくてもわかってるのに。

 わかっているくせに居なくなってしまうのは。

「……なんだよ、ベルと一緒じゃないか」
「うん?」


 そうだよな?とベルを抱きしめるカリナを見て、ジョミーは微笑った。










END





オチをつけるまでが長くなってるちょっとキケン。ぐだぐだぐだ
元ネタにしたのは某音楽に合わせて叩きゲーから「オルタナティブ」の「Missing Cat」。猫の名前もそこから。(笑)
シャングリラで猫飼っていいのかっていう根本的問題はムシしてください。世界は妄想で作るものよ!
あとオンナノコは最初別の子にするつもりだったのですが…ぱっと名前が思い浮かぶのがカリナしかいなかった…(自爆)すまぬほかの子よ…
ついでにソルジャーがいたのは実は最初の広場の裏手でっていうネタが入らなかった…orz


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