星満ちる海 たゆたう静寂(しじま)

 聞こえるのは 安らぎの歌

 わたしたちは 此処にいると

 宇宙(そら)に謳うのは ふるさとの歌







○くじらの歌○















 歌が、聞こえる。

 フィシスは次のカードに延ばした指を止めて、面を上げた。

「フィシス様?」
 僅かな変化を感じ取り、アルフレートもまた爪弾いていた夜想曲(ノクターン)を止める。
 フィシスはゆっくりと振り向いた。

「聞こえますか、あの歌が」
「はい。――この歌は――」





「――あっ」
 今までレポートに目を落としていたスウェナが、不意に顔を上げた。
 見ると彼女だけではなく、周りにいた幾人かも顔を上げ、さらにそのうち何人かが連れ立って講堂を出ていく。
 キースを挟んで向こう側にいたサムとちょうど目が合った。

「サム、今の聞こえた?」
「ああ、聞こえた!」
「――どうしたんだ、二人とも」

 周りにたっぷり数秒は遅れて漸く顔を上げたキースに、サムは「聞こえなかったのか?」と大仰な声を上げた。

「聞こえなかったって、何が」
「くじらの歌だよ、くじらの歌!」

 怪訝そうに眉根を寄せるキースにスウェナは少しだけ寂しくなる。
 どうせ、レポートに集中し過ぎて周りなんて見えていないのだ。

「たまにだけどね――何処からかわからないのだけれど、歌のような音が聞こえることがあるの。そしてその後は決まって『宇宙くじら』が見られる――そう言われているから、その音は『くじらの歌』って呼ばれているのよ」

 スウェナの説明を聞いて、キースは(予想通りの)渋い表情をした。

「そんなものを信じているのか――皆は」

 実に(キース)らしい反応である。スウェナはそれがほんの少し腹立たしく感じた。

「確かに鵜呑みにしてる人なんて殆ど居ないわ。けど――どちらも正体がわからない。だからこそ、その存在は心に残るし、追い求めたくなるのよ」
「歌って言っても、多分システム・メンテナンスの音か何かだろうって言われてるさ。けど、メンテナンス音って言うより歌って言ったほうが、イメージはいいだろ?」

 二人の言葉にキースはやれやれと言わんばかりのため息をつく。
 スウェナとサムは互いに顔を見合わせて肩を竦めた。
 どうせこの手の話題がキースに通じるわけがない。

「でも――なんだろうな」

 不意にぽつ、と呟いたサムの何の気無い言葉が、何故かスウェナの心の隅に引っ掛かって、残った。

「すごく……懐かしいんだ。俺はあれを――知ってる、そんな気が、するよ……」





 フィシスはたおやかな笑みを浮かべる。
 見る者全てに安らぎを与える笑みであった。
「くじらの歌、だそうですわ」
「くじら……ですか?」
「ソルジャーが仰ったのです。遠く母なる海にたゆたうくじらたちの安らぎの歌。仲間を求め、此処に在ることを歌う声……それは、地球(テラ)の歌――なのだと」
地球(テラ)の、歌……」

 流れ聞こえくる声。
 それは揺れる波間のように優しく、陽だまりのように暖かく。

 遠く響く残響は初めて聴く筈なのにどこか懐かしかった。

「アルフレート」

 不意に名を呼ばれ、その声に聞き入っていたアルフレートは珍しく慌てて振り向く。
 そんな彼にフィシスはいつも通りの優しい笑みを向けた。

「どうか、続けて。私にあなたがたの奏でる懐かしい旋律を聴かせてほしいのです」
「――はい、フィシス様」

 ゆるりと頭を垂れ、アルフレートは再びハープを爪弾き始める。

 今度は何処か切なげな夜想曲(ノクターン)ではなく、優しさに彩られた子守歌(ララバイ)


 ――静謐なる空間に、柔らかな二条の旋律が流れる。





 ふう、とひとつ息をつくと、また元の静寂がゆるりと空気を支配する。
 もういいだろう、と立ち上がろうとした彼を制するように声が降って来た。
「ジョミー」
 声に遮られ、歌の主――ジョミーはほんの少し不服そうな視線をソルジャーに向ける。
「……これ、結構恥ずかしいんです、けど……」

 最初は気まぐれだった。

 歌っていたのは小さな頃に、ママにせがんだ子守歌。
 それをソルジャーが何故か、いたく気に入ってしまって。
 今では事あるごとにせがまれるのはジョミーのほうになってしまった。
 彼の歌声はソルジャーのそしてジョミー自身の思念を伝い艦を波打つように拡がっていく。

 ……つまりは艦中で聴かれている訳で。

 歌う声の、木霊のように返ってくるのは歌を聞いている者たちの思念。

 驚きと、喜びと、呆れと、慈しみと――沢山のものが綯い交ぜになったいくつものこころ。

「ジョミー、もう一度、聴かせて欲しい」

 言葉に宿るのは所願というより我侭だ。
 それでもその極上の宝石(ルビー)のような瞳で見つめられれば、もう反論など出来なくなる。

「……もう一回だけですからねっ」

 観念したと言わんばかりのため息をついて、ジョミーは再び小さく息を吸う。
 もう一回、などと言って、もう何度もそれを繰り返しているのだけれど。

 それでもいい、と思ってしまう。


 紡がれるのは、優しい声の子守歌。

 まだ見ぬ故郷を想い歌う、子供たちへの愛の歌。


「ああ――とても、懐かしい……」


 ソルジャーの瞼がそっと、安らぎに満ちた瞳を覆って行くのを見て、
 ジョミーもまた、ゆっくり目を閉じた。





 星満ちる海 たゆたう静寂(しじま) 紡ぐのは

 あなたに捧げる 安らぎの歌

 わたしたちは 此処にいると

 宇宙(そら)に謳うのは ふるさとの歌










END





あーくっそー今だにソルジャーズ(特にじーさま)の口調がつかめませんッ!!キィー。思わず一話からまた見返してしまうよ!!
まずアレですよジョミーはブルーに対して敬語なのか違うのか(そこからかよ!)一歩ひいてんのかフランクなのか読めヌェー…orz

最初はソルジャーズしか出すつもりなかったのに。気付いたらフィシスが出て、フィシスが出たらアルフレートが出て、そしたらいつの間にか地球メンバーが出張ってきました(…)メインが追いやられてますよー。どこに行くんだー。
…地球の歌ってさぁ、今週(13話)見てからちょっと後悔。まさかそうくるとは思わなくってちょっと後悔。げふん。

…アレ実は大譜歌だったら面白いと思う(マテ)


追記:「白いくじら」から「宇宙くじら」に訂正。
…何で白なんだ。外観ですか。シロナガスですかコノヤロー。


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