頼んで用意してもらったソレは思いの他背が高かった。
 ソルジャーはしばし呆けたようにソレを見上げ、ふっとひとつ息をつくと苦笑しながら小さく呟いた。
「やれやれ……これを飾り付けるのは、骨が折れそうだ」

 それは、見上げるほどもある常緑樹(エヴァーグリーン)

 古くはクリスマスツリーとも呼ばれたモノ。
 今は忘れ去られて久しいモノ。



 かくいう彼自身もその実物を見るのも、まして『ソレ』を実践するのも初めてなのだが。
 精々が古い書物で得た知識を、他の誰かが得た知識をコピーして『視た』に過ぎない。
 それでもそれを今ここに、もう一度作り出そうと思ったのは、かつてあったその営みを見せたいと思ったからだ。

 遠く昔、かつては水の惑星とも呼ばれた青の星――地球(テラ)の、その地に暮らしていた人々の、当たり前だった世界の姿を、
 これから新しく地球(テラ)の記憶を紡いでいくであろう大切な、大切な存在に。





 最後の頂上(ベツレヘム)の星を飾り終わって、ふわり着地した地面はつい先ほどまで立っていた場所の筈なのに、随分と久しくそして懐かしく感じた。
 疑似重力が身体を押し付けるようにのしかかってくる。くらりゆるやかな眩暈がそれでも心地良く。
 これなくしてヒトは生きてゆけず、そしてこれがあるからヒトは容易く宙へ手を伸ばせない。

 もう一度ツリーを見上げる。

 飾り付けられた沢山の星の中でもひときわ輝いているのは、最後に飾られた金色(きん)の星だ。
 今しがた目の前にあったその星が、今は遠い。

 手を伸ばしても届かない。今のように能力(サイオン)を使えば容易く届くその場所も、ただ自力では触れることすら出来ない。
 伸ばした手を下ろして、自嘲する。

 目の前にあるはずなのに届かないモノに、それでも手を伸べてしまう自分の愚かしさに。
 彼はこれを見たらどうするだろうか。
 やはり同じように届かない星に手を伸ばして、その手が届かないことにあきらめるのだろうか?

 それとも――それとも。





 ふらふらしながら訪れた星見の間には、いつもと同じようにフィシスがターフルにカードを並べていた。
 気配に気付いたのか、フィシスは閉じた瞳をソルジャーに向ける。

「ソルジャー」
「フィシス、」
「ジョミーなら、此処には来ていませんわ」

 言う前に先を越されて、ソルジャーはそれ以上の言葉を飲み込んだ。
 言うべき言葉を失くしばつの悪そうに苦笑するソルジャーに、占い師フィシスは見えぬ瞳を瞼の奥に隠したままにっこりと微笑んだ。

「ジョミーを探している……ということは、あの準備が終わったのですね?」
「あ、ああ……早くあの子に見せてやりたいと思ったのだが、見当たらなくてね」

 平素の落ち着き払った姿からは想像もできないようなその慌てぶりに、フィシスは思わずくすくす笑った。
 ことあの小さな子の事となると、この冷静沈着なソルジャーは我を見失ってしまうようだ。
 今回の件も、他のものが関わったらそこから思念を読まれてしまうからと、飾りつけは一人でやると言い出したソルジャーに長老たちは目を白黒させながら必死に止めたのだが、結局誰の制止も押し切って一人でやってしまったのだ。
 その結果がこのふらふらの状態なのだから、少しは自重すれば良いものをそんなことには欠片も気が回らないらしい。
 誰よりも永くを生きているのに、そんなところは誰よりも子供のようだ。

「きっと喜びますわ。遠い記憶のイメージも、あんなに美しいものだったのですから、実物はさぞや美しいのでしょう」
「――そうだろうか」
 珍しく否定的な言葉に、フィシスはあら、と首を傾げる。
「手の届かない美しさというのは……絶望すら、引き出してしまうものだよ」

 その言葉に、思念に含まれた哀しみの色彩(いろ)に、彼が重ねる面影(かげ)に気付く。
 それは、

「ソルジャー……」



 この沢山の飾りも、かつては新生する神を祝うためのものだったという。
 だが祈る神すらも忘れ、形骸と化した儀式すら、人々は広がる宇宙(そら)の果てに忘れ去ってしまった。
 今はもう、飾られた星の先に求められた存在など、誰も覚えてなどいないだろう。

 祈ることすら忘れてしまった者たちには、もうその星は手が届かないのだろうか。



「――『星』は、手の届かないものではありませんわ。
 夢を託すもの――希望こそが、『星』なのです」

 すっと、目の前に差し出されたもの――それは、『星』のカードだった。
 ソルジャーから見て正位置に置かれたその意味は――『希望』

「フィシス?」
「ジョミーは今、……青の間に戻ったようです。
 早く戻られたほうが、よさそうですわ。大変な事になっているようですから」
 にっこり、一見して裏のなさそうな笑みを浮かべて、フィシスはあっさりそう言った。





「……これは……」
 転移した瞬間目に入ったもの、それは――ばったり横倒しになった常緑樹――元、クリスマスツリーだったもの、だった。
 呆然とその惨状を見渡すと、ふ、と視界に散らばった飾りとは違う、金色が映った。
「ッ、ジョミー!」
 慌てて駆け寄る。果たしてその金色は、先ほどまで探していた小さな子。
 両手に何かを抱えて、今にも泣きそうな顔をして、それでも決して泣かない。
「ジョミー」
 常緑樹の枝を取り払ってなんとか助け出す。大きな幹の下敷きになっていなかったのは幸いだが、それでも腕や脚にいくつも擦り傷を作っていた。
「ジョミー、無事かい?怪我は……ああ、でもどうしてこんな所に」
 気が動転して思考がまとまらない。近くにいるジョミーの思念すらマトモに読み取れないあたり、本人無自覚に相当混乱しているのだろう。
 抱き上げられたジョミーは泣き出しそうに歪めていた顔をぐっと堪えて、ソルジャーに無理矢理笑顔を向けた。
「これっ!あげる!」
「これは……?」

 ジョミーが手にしていたのは、彼の手のひらより二周りは大きな金色(きん)の星。
 ――間違いない。ツリーの先端に飾り付けた、ベツレヘムの星だった。

「ジョミー、これは」
「あのね、てっぺんできれいだったから、ぶるーにあげようっておもって」
「まさか……これを登って?」

 少し歪めた笑顔はそれでも無邪気だ。
 だがそれもふっとしょんぼりした表情に取って代わる。
「でも、きれいなの倒しちゃった……ごめんなさい」
「もし怪我をしていたら……」
 咎めるような口調に、ジョミーは怒られたと思ったのだろう、しょげた顔をますますしょんぼりさせて、それでも言い訳をするようにちら、と上目遣いにソルジャーを見上げた。
「だって、ぶるーにあげるのはいちばんおっきくっていちばんきれいなのがよかったから」
 だから、と、彼はいとも簡単に言ってのけた。

「――……」

 こんなにも、いとも簡単に。
 手を伸ばしてしまう、なんて。

 届かない、と、あきらめていたのに。

 届かない、と、あきらめていた筈のものを、この頑是無い子は届かせてしまった。
 その金色の星(ほし)を手にして、笑っているのだ。
 こんなにも近くで。
「ジョミー……」
 無邪気な顔をして笑うその星を、ソルジャーは手放さぬよう、抱きしめて、そして――やっとのことで、呟いた。

「ありがとう……」

 希望を、
 くれて。



「ぶるー…?」





『予言者』フィシスはターフルの上のカードを閉ざした瞳でじっと見つめている。
 彼女の手には、『星』のカードの代わりに、小さな赤い飾りがひとつ。

「『星』は、手の届かないものではありませんわ。
 夢を託すもの――希望こそが、『星』なのです。

 どうか、私たちの『星』に、幸多きよう――」

 フィシスの声に応えるように、小さな小さな赤い星がひとつ、ちかりと光った。







○Little Star○











END





なんか考えてたブツとちがくなったwwwサーセンwwww
駄文久しぶりすぎて文章崩壊しててフイタww今回のブルー、「ジョミー」ぐらいしかマトモに喋ってねぇwwwいや俺の言語感覚がマヒしてるんだ、サーセンww
ていうかあんまり久しぶりすぎて色々忘れてる自分wwwブルーの口調なんてモチロンホントに星見の間であってんのかすらwwwwダメ腐女子wwww
なんか何の脈絡もなくジョミたんちっちゃくなりましたがなんかこのちっちゃいジョミたんシリーズで何本かネタがあるのでいずれまとめようと思ってます、しかしクリスマスネタをその走りにしていいのか…(笑)ちっちゃいの好きなんだよー、ちっちゃいトォニィとはまた違った味があるじゃないですか!いやトォニィも大好きだけど!!いずれトォニィも一緒に書きたいなー
絶対この時代にもクリスマスぐらいは残ってる気がしたが、そこはそれマザーの策略で(笑)
しかしまぁ…アンソ原稿やったときの縦書きテンプレ使ったら横書きでは異様に読みにくいことに……もうやめようかなー、でも書きやすいんだよなー


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