今年もまた一年が巡って、

 今年もまた貴女に近づいて、

 そしてまた貴女は遠ざかっていく。



 先輩が、俺と目を合わせなくなった。














○一緒にいたいから○















 それがいつからかは、覚えていない。
 つい最近、昨日今日の話かもしれないし、ずっと以前、二年も三年も前かもしれない。
 ただ、避けられている。その事実が、身に刺さる。
 鋭利な刃物で切り刻まれるような痛みを覚える。

 今までは耐えられていたことに、耐えられなくなってしまった。
 すっかり我侭になってしまった自分自身を嘲笑う。
 隣にいられるだけで、それだけでいいと、そう思っていた殊勝な自分はもういない。
 いつでも隣で笑って欲しい、誰にもその瞳を向けないで欲しい、俺だけを見てほしい、――俺のものであって欲しい、抑えきれない感情が渦巻いて、理性で制御しきれない。
「――クソっ……」
 吐いても吐いてもわきあがる口汚い言葉。
 見せたくない、表に出したくないモノが、溢れ出して止まらない。
 やっと……やっとこの手に触れることが出来たと思ったのに。
 望月を手に出来たと思ったのは、所詮水に映る幻でしかなかったのだろうか。

「好きだよ。譲くん」

 あの時あんなにも心に響いた言葉ですら、俺が勝手に作った幻だったのか?



 ――そして、今日も貴女の瞳を見れないままに一日が過ぎる。



 かさ、という妙な感触に、俺は我に返った。
「……なんだ……?下駄箱に……」
 何故か出てきたのは白い紙が一枚。
 誰かの悪戯か、それとも……
 取りあえず、中を開く。
 中には一文だけ、こう書かれていた。
『放課後に、いつもの場所に来てください』
 名前はなくともすぐに分かった。
 先輩らしい、丸みを帯びた女性らしい綺麗な字。
『いつもの場所に』
 いつもの、あの場所。
 そこに、先輩はいる?
 ――考えるより早く、身体は動き出していた。



「――先輩!」
 声をかければ、振り向いたのはその姿。
 今までずっと、俺を見てくれなかった、瞳。
「譲くん!手紙、見てくれたんだ、よかっ――」
 その姿を見た瞬間、俺は無意識のうちに――腕の中に収めていた。
「ッ先輩……!!」
「ゆ、譲くん?どうしたの!?」
 身体に回される暖かい腕。
 心配げに見つめる瞳。
 駄目だ、もう――
「……離れたく、ない……!!」
「……!」
 言葉にするのもやっとで、何とか絞り出した声。それでも、先輩は俺の気持ちを汲んでくれた。
「ゴメン、ね……?淋しい思い、させちゃったのかな」
 ふわ、と背中を撫でる手が、優しい。
「ごめんね……本当に……」
「ど……して……」
 涙が嗚咽がみっともなくも邪魔をして、話すことすらままならない。
「ん、」
 すっと不意に手を離すと、後ろ手で取り出したのは小さな箱。
「こ、れは……?」
「あのね、譲くん……今日、誕生日でしょ?今まで二人っきりでお祝いしたことってなかったし……だから、今日は譲くんをと二人で、お祝いしようと思って準備してたの」
 誕生日……?
 じゃあこの箱は……
 それより、じゃあ先輩は今まで……?
「私、いつも譲くんに何かしてもらってるばっかりで……今日こそは、って思ってたの。だから、……驚かせて、喜んでもらいたくて」
 でも、きっと貴方は私の嘘なんて、すぐに見破ってしまうから。
 目を合わせて、顔を見られたら、すぐに。
 だって、なんでもわかってしまうんだもの。
「だから、ごめんね……それで、淋しい思い、させちゃったんだね……」
 どうしようもなく再び溢れて来た涙を、細い指で掬って微笑む。
 でも、この涙は……
「すみません、違うんです、先輩……」
 確かに淋しかったのかもしれない。
 けれど、この涙は、違う。
「ただ……」
 貴女が、俺のことを想っていてくれた事が。
 あの言葉が、俺の幻なんかじゃなかったことが。
 巡った一年は、決して遠ざかったわけではなかったことが。
「……嬉しくて」
 ただ嬉しくて。
「……ありがとう、ございます…」
 ありがとう。
 こんなにも、俺のことを想ってくれて。
 こんなにも、俺のことを喜んでくれて。
 こんなにも、俺のことを認めてくれて。

 貴女が想ってくれるから、
 貴女がいてくれるから、
 俺は俺でいられるんです。
 貴女がいなくなってしまったら、俺は俺ではいられない。



 どうか、時空を越えて繋がったこの絆が、
 いつまでも――










END





ああああああああああはははははははははははは(複写眼保持者かアンタは)
日付ぎりぎり、時間一杯一杯、ネタもいっぱいいっぱい(痛)
譲だとどーしてもこんなネタになってしまうのですた;
因みに書いてからお守りイベントと被ってることに気づき(自爆)



想いがすれ違っても、
そばにいなくても、
心はずっと一緒にいるから。
ずっと一緒に、いたいから。


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