「……じゃ、ここでお別れだな」
 軽く言って背中を見せて。
 私は反射的に――無意識に、その服の端をつかんでいた。











○よんかいぶんのやくそく○















「ん?なんだ、忘れ物か?」
 私が止めても不快な顔一つ見せずに、いつものようにそう聞いてくる。
 そう――まるで学校にいるときみたいに。
「ほんとに、ほんとに、すぐまた会えるよね?」
「……なんだ、今日はやけに疑り深いじゃないか。何かあったのか?」
 軽い口調で聞いてくるけれど、とても心配してくれていることが、伝わってくる。
 ごめんね。せっかく明るく振舞ってくれているのに。
 私一人こんな暗い表情をして、そうしたら行くのつらいって、わかってるのに。
 心のどこかが悲鳴を上げてる。行かないで。
 だってまだ――
「……祝ってないもん……」
「はぁ?いったい何を――」
 言葉がそこで途切れる。
 と思えば、急に振り向いて
「おい譲、今日って何月の何日だ?」
「は?どうしたんだよ急に――」
「いーから答えろ。何月何日か」
「八月の、十二日よ」
 譲くんの代わりに答える声。朔だ。
「――やっぱりな。お前、そんなこと気にしてんのか」
「そんなことって……そんなこと、じゃないもん……」
 後ろで、いったい何のこと?と言いたげに朔が首を傾げてるのが見えた。
「だって誕生日はいつもちゃんとお祝いしてたもの。だから――」
「……ああ、そうか。十二日だっけ、兄さんの誕生日」
「たんじょうび?」
 こっちの世界には誕生日の概念がない。
 ――将臣くん、三年間も誕生日をお祝いしてないんだ。
 譲くんが説明しているのを背中に聞きながら、私はぼんやり考えた。
 なら、なおさら。
「あのなぁ、別に祝ってもらわなくったって年は食うもんだし、こんなところでまでいちいち……」
「でもッ……だって……」
 もしここで、何もしないまま別れて。
 それから会えなかったら?
 もう祝うことも、話すことも、何も――出来なくなってしまったら?

 甦るのは、炎の記憶。

 彼があの時どこにいたかなんて、誰も知らない。わからない。
 けどもし京にいたなら、無事だなんてことあるはずなくて。

 もうすでに、未来はあの時と違う道を選んでいる。
 私は戦うための力も得た。今はヒノエくんも一緒にいる。三草山で、敵に囲まれ、ただ逃げるだけに必死だったようなあのときとは違う。もう、ちがう。
 今もそう。京で将臣くんに会った。それだけで未来はまた一つ変わった。初めての出会いじゃなくなった。今はもうあのときの『今』とは違う。この先のことは、私にもわからない。
 将臣くんがずっと無事でいられるかなんて、本当に、わからないんだ。

 何時から私、先の見えない道を進むのに臆病になっちゃったんだろう。
 今までずっと、先の見えないのは当たり前だったのに。
 逆鱗を得て、過去へ戻って、未来を変えて――
 その力があれば、皆を救えると思った。
 でも、過去が変われば未来が変わる。私の知ってる未来はなくなる。その事を、忘れていた?――違う。その事実から、逃げていた。
 京を救えば皆助かると、それを目隠しにして。
 過去が変われば未来も変わる。先生も言っていた、流れを歪ませる覚悟があるのなら、と。
 私が知っていた、将臣くんが無事だった未来への流れは歪む。
 今日は出会えた。じゃあ、次は?
 もう二度と、会えないかもしれない。
 何でもないように朝一緒に学校に行って授業を受けて一緒に帰る、誕生日にはご馳走を作ってケーキを食べて……そんな当たり前がなくなって初めてわかる、あなたの存在の大きさ。
 いっしょにいたい。
 いなくなってほしくない。
 あなたが隣にいない、その事実がつらい。

 そう思うと――



「――仕方ねぇな」
 呆れたような、でもどこか嬉しそうな響きで、将臣くんがため息をつく。
 知ってる。このため息は降参の証。
「でもな、さすがに今回は無理だからな。だから、次だ。次会ったときに祝ってくれ」
「次、って――」
「約束しろよ?三回――いや、今回のも入れて四回分か。たっぷり祝って貰うからな」
 ふっと笑う将臣くんを見て、その意味に気づいた。
 それは約束だと。次、必ず会うために。
 約束、それはまもるもの。
 だから必ずまた会うと、将臣くんはそう言ってくれている。
「……大丈夫さ。不安に思うことなんかないんだ。俺がそう言って大丈夫じゃなかったこと、あったか?」
「……ううん」
 不思議だ。そう言われると、安心できる。
 大丈夫。あなたにそう言ってもらうと、本当に大丈夫だと、そう思える。
「また会えるさ。お前が会いたいって思ってくれるなら、いつでもな」
 夢の中でも押しかけて、会いに行ってやるよ。
 そう言って、いつもみたいに私の頭をぽん、とたたく。
 会いたいと思えば、夢で会える。そんな話、信じるような人じゃないのにそう言ってくれるのは、私を安心させるため。
 外に出さない、気遣いと優しさ。
「……うん」
 だから私も、精一杯の笑顔で応える。
 これ以上気遣わせないように。安心できるように。
 貰った安堵を、返せるように。



 きっと大丈夫。
 この先何があっても。
 だから、この言葉は、次に会ったときまでにとっておくね。
 ――誕生日、おめでとう。










END





ああ言いたい事がわからん…
将臣って、別行動取るから無事かどうかって確認できないじゃないですか。
そんな感じです(どんなや)
確か将臣って誕生日八月だよなー、いつだろ、と思い確認したのが十日(今日)…
うん、過ぎてなくてよかった!!(よくない)
慌てて別のキャラ用に書き起こしてたネタを書き換えて、誕生日というキーワードを無理矢理盛り込んだ結果、こんなわけのわからん物体と相成りました。
毎度行き当たりばったりでスミマセン…
因みに場所は熊野なんですが、別れちゃうってことは将臣ルートじゃないのね、望美ちゃん(笑)
うむ、でもとりあえずは、おめでとうなのです。



あえなくても、このやくそくがあるからがんばれるの



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