誰かの為に、だなんて。
あまりにも滑稽で、そして酷く曖昧な。
○絡操人形○-アヤツリニンギョウ-
「お前ッ……一体何を!?」
「見ればわかるでしょう。裏切ったんですよ僕は。源氏を」
捻り上げた腕に抵抗する素振りはない。
話に集中するために、それは寧ろ有難かった。
「随分と大人しいですね。……まるでこうなる事がわかっていたみたいだ」
皮肉にそう言えば、目線がその通りだと告げている。
全く持って読めぬ少女。
目の前の青年とは大違い。
誰かのため、そんな台詞を惜しげなく使うから。
だからあまりにも、その思考は読みやすい。
「人質だというなら、そいつは離せ!俺が行く!!」
ああ、やっぱりそう言うと思った。
進んで犠牲になろうとする姿は、美徳であり、――醜悪だと、何故気付かない?
「九郎……自分を買いかぶらないことですね。鎌倉殿ご自身なら兎も角――その名代でしかない君には価値がない」
そう、所詮用意された傀儡でしかない君に。
『誰か』の言葉がなければ動けない君に。
誰かのため、それは単なる逃げ口上。
自分独りでは何も出来ない、それを隠す為の都合の良い言い訳。
「だから君は僕一人すら止められない」
――止める価値すらない、それだけの存在、その可能性を敢えて考えずに。
僕を止められないのは、それが彼の人の意に反しているから。
そう、彼の人が決めてくれなければ、君は動くことも出来ない。
「どうします?貴方の大事な大事な兄上にご注進しますか?
もしそうすれば間違いなく討伐の命が下るでしょうが」
僕は殺されますね、と、深刻さの欠片も含めぬ口調で言う。
「弁慶ッ……お前は……!!」
きっ、と唇を噛み、九郎が睨み付ける。
その目に篭った感情は、怒りか、憎しみか、それとも。
「言いませんでしたか?僕は別に鎌倉殿のために動いていたわけじゃない。必要ならば、平家につく事も厭わない」
君のように、鎌倉殿に囚われたりはしない。
欲しいものは手に入れ、要らぬものは捨て、罪はこの身で償う。
誰の意思でもない、自らの意思で。
「さあ、貴方はどうしたいんですか」
兄上の命を受けて僕を殺しますか。
行くな行くなと涙でも見せて縋りますか。
――裏切り者と、僕を罵りますか。
鎌倉殿の為に。
君が何時までも誰かの元で踊らされ続けたいというなら僕はそれで構わない。
それなら僕は躊躇うことなく君を捨てるから。
兄弟の、主従の縁すら断ち切って、君は此の元へ来る事が出来ますか?
上がる鬨の声。集う 兵 。
時間は刻々と流れていく。この間にも。
出来うるならば、願うなら。
追いかけてきなさい、今すぐに。
身を縛る糸の呪縛を逃れて。
END
黒い弁慶さんにしようとしたら、すっかり甘さが抜けてしまいました。一体何処に落としてきたんだ自分。
なんかこれじゃあ、九郎が鎌倉殿のことばっかり気にしてるのに嫉妬してるみたいだしな(笑)
しっかしこれ、弁慶ルートだというのに望美ちゃんとは全然ラブラブじゃないのね。一筋なのね。ひどいや!(感情の篭らない非難)
しかも調べてみたら、カラクリ人形って江戸時代からじゃん!!(自爆)
それにしても、弁慶一人称多いな自分!書きやすいのか…なんなのか…
いつか、人形は糸を切って、