「ごめんっ!明日は予定があって……」
『――ふぅん?』
 携帯電話越しに聞こえた声は予想よりもずっと素っ気ないものだった。
『姫君の都合がつかないなら仕方ないね。じゃあ、次に空いてる日があったら連絡してくれるかい?』
「えっ、あ、うん……わかった」
 それきり簡単な挨拶だけ交わして、携帯は接続切断の無機質な音を立てる。
 悪いのは私だけど――なんだか寂しい。
「……ごめんね、ヒノエくん」
 今ここに居ない相手にぎゅっと謝って、私は改めて明日の予定を詰め込んだ手帳を開いた。
 明日はあなたのために、どうしても外せない用事があるの。









○Lie & Anniversary○















「っと、後は……ケーキ!」
 昨日の電話から一日経って。
 私は左手にショッピングバッグ、右手に鞄と手帳を持って鎌倉の街を彷徨っていた。
 彷徨ったって言っても、迷子になったわけじゃないけど……
 駅からずっとあっちに行ったりこっちに行ったりしてたから……
 お店の見当はいくつかつけていたけど、そのお店が思っていたよりも離れたところにあったせいで街中を彷徨う羽目になってしまった。
 でもそのおかげで、考えてたものよりずっとずっといいものが買えた。
 これと後はケーキを買って、ヒノエくんのところにこっそり訪ねていけばいい。
 いつもヒノエくんには驚かされてばかりだから、今日ぐらいは驚かせたいじゃない?
 きっと驚くよね。喜んでくれるかな。

「……ホントに?」

 ふ、とよぎった不安が、不意に口をついて出た。

 ホントに?

『ごめんっ!明日は予定があって……』
『――ふぅん?』

 あんなにあっさり引き下がられるなんて思わなかった。
 明日――今日は、特別な日だって、私にとってもヒノエくんにとっても特別な日なのに。

『予定があって』

 半分本当だけど、半分は嘘。

 誰かと約束してるわけじゃない。その気になれば、一日自由に過ごせたのに。
 それでも、嘘をついたのは。

「――っ……」

 嘘を、ついてしまったのは。

「――後悔したって仕方ないじゃないっ……」

 ――そう、今更後悔したって仕方ない。
 もう後戻りなんて出来ない。今日という日は来てしまったのだから。
 嘘をついてしまったこと、もしかしたら怒るかもしれないけれど。
 もしかしたら、もうとっくに嘘に気づいていて、嘘つきな私に愛想を尽かしてるかもしれないけど。



 今日が嘘をついてもいい日なら、昨日の嘘も赦してくれませんか?



 あなたのためについた嘘を。



「絶対びっくりさせるって決めたんだから!」
「じゃあ逆に驚かせるのは悪いかな?」
「ひゃあッ!!!!」

 突然――突然耳元で囁かれた声に驚いて飛び上がりそうになる。
 取り落としそうになったバッグを後ろから回された手が私の腕ごと持ち上げて、反対側からも回された手で私はまるごと包まれてしまう格好になった。
 それよりも、この声――
「ヒノエくんッ!?」
「こんなところで会うなんて、奇遇だね?もしかしたら運命の導きかもしれない」
 くすくす笑う。……もしかして……
「もしかして……嘘だって、気づいてたの……?」
「何のことかな?」
 いつもと同じ、はぐらかすような態度。それは言葉より雄弁に、私に本当のことを教えてくれる。
 やっぱり気づいてたんだ……
「せっかく驚かせるつもりでいたのに……」
「充分驚いたよ。こっちの歳の数え方を教えてくれたのは望美なのに、まさか断られるなんて思ってなくてね」
 う……
 今更だけど、すごく罪悪感が襲ってくる。
 今日が特別だって教えたのは私自身なのに、張本人がその日に予定を入れただなんて、……そんな事言われたら、誰だって怒るに決まってる。
 なのに……

 私を包み込む腕は、いつもと同じで、暖かくて、優しい。

「ヒノエくん」
「ん?」
「……嘘ついて、ごめんね」
「――ゆるさない、って言ったら?」
「ッ……」
「冗談だよ。今日は嘘をついてもいい日なんだろ?それがオレの為の嘘なら……尚更」
 でも、どうせなら嘘じゃない言葉を聞かせてくれない?

 耳元で囁かれた言葉に、だから私は嘘のない真実の言葉を口にする。
 一番言いたかった言葉を。

 誕生日、おめでとう。

 大好きだよ。










END





ヒィヒィ たんじょーびが4/1だと、気付いたのが前日18時。(自爆)
練るヒマがなかった…!!!すげぇ悔しいッス!!
でも過ぎてなくてよかった!(自爆)おめでとー!!!


うう…それにしても地朱雀と本気でネタがかぶった…よう…な…o rz


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