「アシタバくん、ちょっといいかな?」







○ラブレターとやきもち○










 じゃあよろしくね、と去っていく背中を見送って、ボクはこっそりとため息をついた。
 隣のクラスの女子。名前は……なんだっけ。
 マトモに話したこともないような子にボクが話しかけられるような用件って言ったら、だいたいひとつしかない。
 その子から渡されたそれを見る。ピンク色したかわいい封筒。
「あらそれラブレター?」
「えっ」
 ひょいっと後ろから話しかけてきたのは鏑木さんだった。
 ボクが持っているそれを見て、ふぅんと笑みを浮かべる。
「なかなかスミにおけないじゃない?」
「違うよ、ボクじゃなくて」
 マトモに話したこともないような子の用件といえば、だいたいこっちだ。
「藤くんに渡してくれって」
「ああ、なるほどね……」
 なんだつまらないわね、とカオに書いて鏑木さんが呟いた。
「それにしても、ラブレターをヒトに頼むのね。頼んだ方はいいかもしれないけど、渡すほうだって渡されるほうだってあんまり嬉しくないと思うわ」
「うーん……」
 そうでしょ?と訊かれ、ボクは曖昧にうなずいた。
 そりゃあ、たぶん違うだろうって分かってても声かけられると少し期待しちゃうんだけどさ。
 それに、こうやって藤くん宛ての手紙を受け取って、それを渡さなきゃならないのは、なんだか……よく分からないけど、胸がぎゅっとする。
 なんだろう、この感じ。とりあえず、あんまりいい気分じゃないのは確かだ。
「こういうの、ヒトに頼まないで、ちゃんと自分で渡せばいいのに」
 ……ハデス先生を追いかけるのに付き合わされたボクとしては鏑木さん本人にもそう言いたいトコだったりするんだけど。
「でもほら、一応頼ってくれたわけだし……」
 なんか言い訳がましいなぁと自分で思いながらとりあえず笑っておく。
 そこで突然背中にずしっと重みがきた。
「あ」
 うわさをすれば影というか、藤くんがボクの肩口から覗き込むようにして身を乗り出していた。……藤くん、ちょっと重いよ。
「なんだそれ。手紙か?」
 ちょうどいい所に、と言おうとして、言葉に詰まる。
 藤くんが、こちらの手元をじっと見つめたまま不機嫌そうな表情を浮かべていた。
 何故か無言のプレッシャーを感じて、なんだか居心地が悪い。
 やがて、黙っていた藤くんがぼそっと口を開いた。
「……アシタバ」
「え?」
「お前、案外モテるんだな」

「…………はぃ?」
 一瞬、何を言われたのかさっぱり分からなかった。
 えーと、ええと……それは、つまり?
「……ちっ、違っ!これはボクのじゃなくてっ」
 慌てて誤解を解こうとしたけれど、すでに藤くんは背中を向けて立ち去ろうとしていた。
「待ってよっ!!」
 ボクは急いで追いかけようとして身体をひねり、
 ととっ
「えっ!?うわっ!!」
 足がもつれる!!
「ちょっ……!!」
 伸ばした手が思わず藤くんの腕をつかんで、
「っ!?」
 こっちを振り向いた藤くんと一瞬目が合って、

「うわっ――!!」

 どしゃっ。と、そのまま二人してその場に倒れた。

「ちょっ、ちょっと二人とも大丈夫!?」
「ったたた……だ、だいじょう……」
「ってぇー……!」
「っ!?ごっ、ごめ……!!」
 ボクの下から声がして、ボクは慌てて身を起こした。
 腕を引っ張ったときにそのまま引きずって下敷きにしてしまったらしい。
「ったく……、なんなんだよ一体!?」
 毒づきながら藤くんも身を起こす。どうやら大丈夫そうだ。
 とりあえずもう一度ごめんと謝ったけれど、でもそもそも追いかける羽目になった原因は藤くんだよ、と心の中で呟いた。
 転んだときに握りつぶしかけた手紙を差し出す。
 胸がぎゅっとして変な気分になるのも、藤くんを追いかける羽目になったのも、これが原因だ。
 ああ、もう、安請け合いしなきゃよかった。
「これ」
「ん?」
「これ、藤くん宛てのを僕が預かっただけだから」
 だから。
 なんだか自分でも言い訳がましいなぁと思いながら手の中のモノを押し付ける。
 藤くんは受け取ったそれに目を向けて、それからちらりと僕を見て、「……あー……」と唸るような声を上げた。
「……アシタバ、悪いけどもう、こういうのは受け取らなくていいから」
「え、でも」
「いい。どうせ読まねーし、それに」
 藤くんは何故かボクから目を逸らして、
 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、こう言った。

「俺、もう好きな奴いるから」

 ……。
「え」
「え」

『ええっ!?』
 ボクと鏑木さんの声がハモる。

 藤くんはそれ以上何も言わずにさっさと立ち上がるとまたくるりと踵を返してしまう。

「ちょっと、それって……!」
 鏑木さんがその後を追いかけ、
「ちっ、ちょっと藤くんっ……!」
 ボクも追いかけようとして、けどボクはそれ以上追いかけることができなかった。
 なんて訊けばいいのか、わからなかったから。
 どうしてそんなことを訊くんだなんて言われたら、答えられないから。
 どうしてかなんて自分でもわからないけど、でも、すごく気になったんだ。

 それは――誰、なんて。



 封がとじられたままの手紙が、その場に残っていた。


















最初シンヤと美っちゃんどっちにしようか迷って、シンヤ書きたくてシンヤにしました(笑)
友達以上恋愛未満。藤は自覚済み、アシタバくんはまだまだ。
これからライバル増えるし、苦労するね!(笑)







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