○The histry to be out of order○















 焔の様な朱の色に、ガイは目を覚ました。
 目覚めの光は随分と眩しく、自然と唇がその色を持つ者の名を紡ごうとして、それが窓から差す夕刻の光であることに気付く。
 どうやら、ここはどこかの宿の一室で、自分は今まで気を失っていたらしい。
「良かった、気付いたんですね」
 ほっと安堵する声に顔を向けると、そこに居たのはイオンだった。
「イオン……?俺は一体……」
 起き上がろうとするガイを、そっと細い手が制す。
「動かないでください。まだ……カースロットを解除したばかりです。どんな影響があるか、わからないですから」
 心底ガイを心配するイオンの口調は、だがダアト式譜術を使った影響だろう、疲労の色が隠しきれることなく滲んでいた。
「カース、ロット……」
「ダアト式譜術の一種です。ヒトの深層に刻み込まれた意識を利用して、思いのままに操る」
 哀切な表情で説明するイオンの言葉に、ガイは小さくため息をついた。
「深層意識に、か……」
 意識がかき乱された、その瞬間がまざまざと甦る。
 無理矢理奥底から汲み上げられた感情は、憎悪。

 心の奥に潜めて久しい、黒の感情。

「そうか、俺は……」

 潜んでいた憎悪の感情を剥き出しにされて抗うことも出来ず、聖なる焔の光――ルークを、襲った。
 傷つけ、奪い、朱に染めて、昏い心の虚を復讐で埋めたいという、醜くそして純粋な願望。
 自身の中にソレがまだ残っていた事実に、ガイは苦笑した。
 心に大きく凝った闇は、どうやらそうそう消えてくれるようなものではなかったらしい。
「……まだまだだな、俺も」
 誰にも聞こえぬようそう呟くと、まだ若干だるさの残る身体に力を入れた。
「まだ起きては――」
「いや、大丈夫だ。ありがとう、助かったよ」
 心配そうに顔を曇らせるイオンに小さく微笑んでから、ガイはベッドの上に身を起こす。
 と、その時懐から何か小さなものがころ、と転がり出た。
「?」
 それに気付いたイオンが拾い上げると、彼の第七音素(セブンスフォニム)に反応してか、僅かにきらきら光をこぼす。
「ガイ、これは……」
 ガイは「ん?」とイオンの手の中のものに目を向けると、「ああ」とさして興味もなさそうな声で呟いた。
「それか。まだ持ってたんだな……。とっくに捨てたと思ってたんだが」
「これは……譜石ですか?」
 きらきらと音素がこぼれて虹色の小さな輝きを放っている。
 ダアトでよく見かけるそれは間違いなく譜石だった。
「ああ。俺が五歳の時の誕生預言の譜石さ」
「……大事なものではないのですか?」
「いや、別に。今となっちゃなんの意味もない代物だよ」
 どうせ大したことは詠まれていないしな。と教団の者が聞けば激昂しかねないような発言にも、イオンは小首を傾げて微笑むだけだ。
 だが、後生大事に懐に仕舞われていた割にはぞんざいな扱いのその譜石が、イオンには気になった。
「……迷惑でなければ、詠んでも構いませんか?」
 思わずそう聞いたイオンにガイは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑って「ああ、構わないぜ」と返した。
「ありがとうございます」
 礼を述べて、イオンは指先をそっと譜石に当てる。
 この程度の譜石であれば、集中せずとも刻まれた預言が意識の中に流れ込んでくる。
 詠まれた年月、導かれる未来への詩、そこに描かれた道標。
 ユリアが読み解いた第七音素(ローレライ)の言の葉を、イオンはユリアと同じように紐解いていく。

 ――ND2002 其の生まれた島は滅び、季節が一巡りする間戦乱へと巻き込まれる。栄光を掴む者と共に地に沈む島を見ることになるだろう。

 ――ND2005 キムラスカ・ランバルディアにて聖なる焔の光と見える。赤き焔に其は流された血を見るだろう。これより焔の光のその影に憎悪の刃を隠しつき従うこととなる。

 すう、と流れ込んでくる、決して平穏とは呼べぬ内容の預言にイオンはほんの少しだけ顔を顰めた。
「……これは……」
「……皮肉なモンだよな。秘預言(クローズドスコア)とされて隠匿されたホド崩壊も、俺の誕生預言にしっかり詠まれていたなんて。もっと早くに知っていれば……」
 言って、自嘲気味に微笑う。
「誕生日に……詠むことができなかったのですね」
 ホドの崩落は確かND2002・イフリートデーカンだっただろうか、とイオンは数年で刷り込まれた記憶を反芻する。それは受け継がれた秘預言の記憶ではない、単なる知識――刻まれた後の歴史。
 そして、今手の中にある譜石が詠まれたのは、イフリートデーカン・ローレライ・41……まさに、その日だ。
 一瞬、ガイの瞳に昏い光が宿る。
「いつだったかな。ファブレ公爵の屋敷に使用人として潜りこんだ後に、こっそり教会で詠んでもらったんだよ。……愕然としたね。その時はそれ以上預言を詠んでもらったりはしなかったんだが、俺は間違いなく、ルークを殺すんだと思った」
 預言にある恨みと怒りを抱えたまま、進むのだと思った。
 流れた血を知らない奇麗な光を消すのだと、そう思っていた。
 ――ずっと。
「それから――ルークが誘拐、いや……今のルークになって、ずっと一緒にいて世話をして……気付いたら、それまでの意識なんて、どこかに消えちまってた。……消えちまったわけじゃないか。ルークを襲ったってことは……。それでも、このまま復讐も何もない安寧の中に身を置くのも、悪くないと思ったのさ」
 この存在が、幸せを奪ったとそう思い続けて。
 いつの間にか、その存在そのものが幸せとなっていて。
 湧き上がる感情が憎しみから愛しみに変わったのは、いつだっただろう。
 奪いたいものが、守りたいものになったのは、いつからだっただろう――。
「だから、今となっちゃその譜石に何年先の未来が詠まれていようが、関係ないんだ。俺はもう、アイツの傍にいるって、アイツの味方だって決めたからな」
 もう、ガイの瞳に昏い光はなかった。
 代わりに浮かんでいるのは、心を定めた者の強い光。
「……不安ではなかったのですか?預言に詠まれていない感情を抱いたことに」
 静かなイオンの問いかけに、だがガイは首を竦めて笑みを浮かべる。
「別に。あれ以来結局きちんと預言を詠んでもらうことはなかったし、それに――」

 自分に向かって伸ばされた聖なる焔の無垢なる光。
 それは血の色ではなくて、暖かい日の色だと気付いた時から。
 それがなくてなはならない存在だと、気付いたときから。

「アイツになら俺の人生狂わされてもいいって思っちまったからさ」
 あっさりと。
 そう言ってのけたガイに、イオンは一瞬きょとんとしたあと、ふんわりと微笑んだ。
「そうですね……ルークはきっと、預言にあるよりも良い世界を創ってくれるでしょう」
「おいおい、そんなこと言っちまっていいのか?」
 ローレライ教団の最高指導者でありながらあっさり預言を否定するような発言をするイオンに、ガイは苦笑する。
 そんな彼に、イオンは珍しく年相応のいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「僕も、彼になら狂わされて良いと、そう思いましたから」










END





ちょwwイオン様のが黒くなったwww
つわけでイオン様より黒くない白ガイルクです。白と黒はカテゴリ分けるべきなのだらうか。(笑)
てか色々矛盾ありますがスルーしてください…MOUSOUバンザイ!orz
てかまたルークでてこぬぇぇぇ…


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