今までを省みて新しく変わっていくとしても

 今まで通り変わらないものがあってもいいじゃないか









○Only it is never changed○















「ッ!」
「はァッ!!」
 体重を乗せた一撃が、ルークのわき腹辺りを掠めた。
 いくらただの木刀だからといって、当たればかなりのダメージになる。それだけの重さとスピードを乗せた攻撃を、だがルークはあっさりかわしてのけた。
 今までなら、これがクリーンヒットして転がったルークに「手加減しろよッ!」と文句を言われて終わりだったのだが――
 久々に手合わせしたルークは、手加減を許さないほど強くなっていた。
「ッてぇいッ!」
「甘いなッ!」
 逆袈裟に大きく振られた剣を、身を沈めてかわす。そのまま懐に飛び込み、ルークの背後に回りこんで、一撃加えれば終わり――のはずだった。が、
「なっ」
 振り返った先にルークの姿がない。あるのはただ、夜の闇だけだ。
 ふっと、斜め後ろに不意に生まれる気配。
 回り込まれた――
 そう認識する間もなく、無意識に身体が――
「――ッ!!」
 ダメだッ!!ルークに――
 勢いと慣性に任せ振るわれた剣の方向を無理矢理別の方へ捻じ曲げる。
 手加減すら忘れた一撃を当てるわけにはいかなかった。
 無茶な反射に腕の足の筋肉が悲鳴を上げるが、そんなことは構わない。
「――ッわぁッ!!」
 慌てたルークの声。お願いだ避けてくれ。
 ちりッ――
 何かが擦れる音の後、二人ともその場に盛大に倒れた。

「って……おいルーク、大丈夫か!?」
「うーだいじょう、ぶ……ててて」
 草むらから身を起こした姿に、一見して大きな怪我はなさそうだった。
「悪い、手加減できなかった」
「いや、いいんだ。むしろ手加減できねーくらい強くなれたんだったら嬉しいしさ」
 本当に心底嬉しそうに笑うと、よっ、と掛け声一つかけて立ち上がる。
 ――と。
「ルーク、腕……それ怪我してるんじゃないか!?」
 ちょうど二の腕の辺り、一条の赤い線が走っている。
「へ?」
 俺に言われてから初めて腕を見て少し顔をしかめる。
 どうも気付いていなかったらしい。
「ああ、この程度なら大丈夫だから……ってッ!」
「本当に大丈夫か?見せてみろ」
 返事を聞かずに赤くなっている部分にそっと触れる。
 当たるギリギリでなんとか逸らしたものの、切っ先が掠めてしまったらしい。
 うっすら血が滲んでいるもののさほど酷いものではない。これならティアたちの世話になる必要はなさそうだった。
 適当な布を取り出して、傷口を拭き、縛る。
 応急手当にもならないが、この程度ならこれで充分だ。

「……ごめん」
「何で謝るんだよ」
「それ……汚れちまっただろ」
「なんだそれ」
 気にすることじゃないだろ、と微笑う。
 実際、今までそんなことを気にするようなことなんてなかったのに。



 あの、我侭で甘ったれな子供はもういない
 今ここにいるのは、自分を自覚し成長し変わった少年



「……なぁ、ちょっと話さないか?」
 突然の提案にルークは驚いたようだった。
「え、でも皆心配してるんじゃ……何も言わないで抜け出してきちまったし」
「こんな時間だ、誰も気づきやしない。少しぐらいゆっくりしていっても別にいいだろ」
「でもガイ……」
「いいから座れって」
 く、と腕を引いてやれば、大して抵抗する力もなくそのまますとん、と俺の斜め後ろへ腰を下ろす。
 しばらく所在なさげにしていたものの、やがて少し遠慮がちに肩口に暖かいものが触れた。



 今までを省みて新しく変わっていくとしても

 今まで通り変わらないものがあってもいいじゃないか

 それは例えるならば

 今触れているこのぬくもり

 寄り添える距離



 少し重心をずらせば、触れたぬくもりが更に強く伝わってくる気がする。
 無意識なのだろうか、居心地のいい場所を探す所作がまるで甘える猫のようで。
 そういったところは昔から変わらない。
 ……変わらないでいて欲しい。

 ああ、屋敷にいたころも、こうやって庭で二人ぼおっと空を見上げていることがよくあった。
 あのころはラムダスやメイドたちに見咎められては怒られていたもので、その度ルークはぶちぶちと我侭を言っては皆を困らせていた。
 それが、今はどうだろう。
 誰も咎めるものはいない。その代わり、我侭を言うことも、もう、ない。



「なぁ」
「うん?」
「たまには、甘えろよ」
 返ってくる言葉はなかった。
 代わりに、息を呑む気配が伝わってきた。
 顔は見えないが、恐らくその翡翠色の両目を大げさなほどに見開いているに違いない。

 その素直な反応が、どうしようもなく愛おしい

「今までと変わるために頑張ってるのは、凄くわかるから」

 痛いほどに、辛いほどに

「でも…そのままじゃいつか、壊れちまうぞ」

 だからたまには

「甘えたっていいんだ」

 変わらない自分をさらけ出したっていい

 自分を全て殺して変わるくらいなら

 変わらないものがあってもいいじゃないか

「俺の前でくらい、我が儘言ったっていいんだぜ」

 全て殺して変わるくらいなら

 変わらないお前を引き止めることが出来るなら

 俺を変えた何よりも尊いお前を引き止めることが出来るなら



「……じゃあ、また剣舞、付き合ってくれよ」
「なんだ、それだけでいいのか?」
「あ、あと……かいもの、とか……俺、まだわかんねぇ事とかあるし」
「ああ、いいぜ」
「あと……料理とかっ……あと……あと……」
「何でも言えよ。付き合ってやる」
「……あと……」
「ん?」
「……いっしょに、いてくれるか……?」

 たったそれだけ

 たったそれだけがどうしようもなく大切で



 伸ばした手が地についたルークの手に触れる。
 そこにきちんと温もりが在ることを確かめて、痛みがない程度に強く握り締めた。



 決して失いたくはなかったから。

「お前も」



「勝手にいなくなったりするなよ」



 どれだけ甘えたって構わないから
 せめて俺の願いも聞いてくれ。



 こく、と頷く気配が伝わる。



 ああ、わかっていたのに。

 きっと頷くしかないだろうということぐらい。

 それでもその答えを求めたのは



 俺の甘えだ。










END





『ルーク阿弥陀企画』様に提出させていただいた作品…の、ウラ話(というかむしろこっちが元だったなんて口が裂けても)。提出作品とどっちに重きを置くか、どっち先に読むかは特に決めてません。でもこっちのが後っぽい?
最初、なんだか書いているうちにどんどんガイ様が出張ってきちゃって挙句一人称になってしまい、「これじゃーメインが誰かわかんヌェーよ!!」との心の叫びの元、提出作品はルーク視点で完全書き直し。毎度毎度ホントに計画性皆無だこと!ノホホホホ!(壊)
甘えることをやめて成長を始めたルークと、それに対し成長することへの喜びと同時に自分から離れていってしまう恐怖を感じるガイ。そんな二人の二面性が伝 わ れ ば イ イ ナ !!(笑)


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