「がー、い!」
「どうかしたかー、ルーク」









○The child is father to the man○















 離れた場所から二人の声が聞こえて、ペールは手入れをしていた花壇から顔を上げた。
 視線の先には幾度も幾度も振り返り手を振りながら駆けていく赤い髪の少年と、そして――
 苦笑しながらそれを追う、金の髪の少年。
 見目の違いさえ気にしなければ、まるで仲の良い兄弟そのものである。
 誘拐騒ぎから三年――救出された当時は言葉すら失ってしまい誰に対しても怯えの色を隠さずにいたルークをここまで回復させたのはガイだった。
 三つ子の魂百までとは良く言ったもので、外見こそそう年離れて見えずとも心はまるきり年端も行かぬ子供であるルークに対し、ガイは持ち前の面倒見の良さを遺憾無く発揮して――それが敵の子供であるにも関わらず、だ――、今やルークの口からは二親と「ヴァン師匠」と「ガイ」という名しか呼ばれないのではないのかと、口さがないメイド達に揶喩される始末。
 これも毎日甲斐甲斐しく世話を焼いていたガイの努力の賜物だろう。
 例え憎悪が心に根差そうとも、根幹たる優しい性根が覆ることがなかったからこそ、ルークもあれだけ心を開いたのだ。

 ルークが誘拐され、記憶も何もかも失ってから、――もう三年。

 この三年の間に随分と変わった。

 ガイの瞳から昏い色の光が薄らいでいったことも、そのひとつ。

(出来るなら――このまま、平穏が続いてくれれば……ガイラルディア様にとっても良い事でしょう……)
 駆けていく二人の背中を見やりながら、ペールはそっと目を細めた。



「がー、い!」
「どうかしたかー、ルーク」
 ルークがたどたどしい口調でガイを呼ぶ。
 こっちこっちと大手を振って手招きするルークのところへと足を向け、ガイはふと自分の行動にため息をついた。
 ――何やってんだ俺は。
 前を歩くのはこのオヤシキの主の息子、馴れ合う相手ではないというのに。
 いつの間にすっかり友人気取りで、周りに人がいないと口調ですら砕けたものになってしまう。
 そんな自分の甘さに苦笑しながら、直さなければ、と「どうしましたかルーク様」と言い直せば、途端ルークの顔から笑みが消えて、ふて腐れた表情に変わった。
「やだ」
「?なにが――」
「『さま』って、やだ」
 それだけ言ってぷい、と顔を背けたルークに、ガイはしばしキョトンとしたあとやれやれと言わんばかりのため息をついた。
「何を言い出すかと思えば――」
 普段から敬称など、呼ばれ慣れているでしょうと、優しく落ち着いた冷たい声音で宥めるように言い聞かす。
「でもやだ」
「でもって」
「がいにそうやってよばれんの、やだ!」
 それだけ言ってぷう、と頬を膨らませたルークをまじまじと見つめる。
 何をそこまで嫌がるかが解らない。
「でも、俺はルーク様の使用人ですよ?」
「ちがうっ!」
「違う?」
 ますます眉を顰めるガイに、ルークは今だ発音不明瞭な舌足らずの言葉でそれでも一生懸命意思を伝えようと試行錯誤している。
「がいはー、ともだち、だから……た、たにん、ぎ?」
「他人行儀?」
「たにんぎょーぎ!なのは、やだッ!」
 声を張り上げ顔を真っ赤にして怒った姿勢を見せるルークに、ガイは再びため息をついた。
 降参のため息。
「――わかったよ。でも二人きりのときだけだからな?」
 言うとふくれっ面が途端に満面の笑みに変わった。
「うんッ!」
 果たして本当にわかっているのやら。
 このままだとまた誰かに叱られるであろう気安い物言いに目を細める。

 友達と呼んだ。
 誰あろう、自分を。
 この子供は(・・・・・)
「がーい、はーやーくっ!こっち!」
 また駆け出した子供はまろびそうになりながらも頻りと振り返ってはガイに手を振る。

 召使にも使用人にも心開かず居丈高な物言いばかりを覚えたこの子供が、ただ一人友と呼ぶ存在になったのだ。
 それだけの信頼を、植え付けることが出来た(・・・・・・・・・・・)
 この子供に。
「がーい、ってばー!はやくー!」

 見目は今まさに大人への過渡期に入ろうかという年齢でありながら、中身は真っさらな魂にたった三年分が積み重ねられただけの、無垢な子供。

 純粋にして単純な、疑うことも知らぬ子供。
 信じることだけしか知らぬ子供。

 三つ子の魂百まで。

 三つ子に植え付けた信頼が見るも無残に打ち砕かれたとき、この子供は一体どんな絶望を見せてくれるのだろう。

「――ハイ、ルーク様」
 けらけらとあどけなく無防備な笑顔を貼付けた笑顔で受け止めながら、ガイは胸のうちで、嘲笑った。










END





なんかペールとか出しちゃった庭師庭師(笑)メインメンバでさえ出てきてない(痛)人がいるのになんで出てきちゃったのコノヒト!
にしてもヤヴァイこの害様ルークのこと笑顔で刺しそう(笑)いっそ刺させるか…?
でも黒害様って感じではないな…どちらかというと、根暗害様って感z(殴)
華麗に爽やかガイ様もいいけどこっちも捨て難いネ…!


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