「……って」
 不意に虎徹が呟いた声に、バーナビーははっとして振り返った。
「どうしたんです」
「っ……あー、何でもねーよ、気にすんな」
 視線を逸らしてぱたぱたと手を振る彼に、だがバーナビーは眼鏡の奥からジト目でパートナーを睨みつける。
「……何だよ」
「アナタの『なんでもない』は信用できないんですよ」
「おま……流石にそうきっぱり言われると流石の俺でも傷つくっつーか」
 にべもない言い様に虎徹がもごもごと口を動かす。バーナビーはその様子に目ざとく虎徹の異変を見つけた。
「おじさん、ちょっと口の中見せて下さい」
「はァ!? おま、ちょ、何言っ」
「いいから!」
 嫌がる虎徹の顎を押さえつけ、無理矢理口を開かせる。日ごろから「ヒーローが虫歯だったりしたらカッコ悪いだろ」とのたまっているだけあってそれなりに綺麗な咥内にじわりと赤く滲むものがあった。血だ。
「おじさん……」
 思わず呆れた声が出る。
「ふあ、はんはおッ!?」(な、何だよッ!?)
「またキャンディの破片で口の中怪我したんでしょう!? 何度言ったらわかるんですか噛み砕くなってあれほど言ったじゃないですか!!」
「ほ、ほんはほほへほはっへ、はろっ!!」(そ、そんなの俺の勝手、だろっ!!)
「勝手じゃありませんよそれで怪我してるんじゃないですかそれとも無理矢理マウスピースでも嵌められたいんですか!」
 じたばたと暴れてなんとか掴まれた腕を引き剥がそうとする虎徹の口の中に指を突っ込んでソレを取り出す。オレンジ色の飴玉は一部が欠けて鋭利な断面を見せていた。大方その断面で咥内を引っかいたのだろう。
「堪え性ってモノがないんですか、アナタは……」
「……っは、そ……そんなのクセになっちまってンだから仕方ねえだろ」
 盛大なため息をついたバーナビーからようやく解放された虎徹が反駁する。が、バーナビーは容赦がない。
「だとしたら大いに悪癖ですよ。僕に食事のことだの生活のことだのさんざん口出してくる割に、アナタの方がよっぽど生活習慣乱れてるじゃないですか。体面考えるなら僕よりおじさんの方がよっぽど問題です」
「生活習慣てお前……あのなあ、俺はお前のことを心配して言ってやってるだけで、俺自身のことをどうこう」
「アナタに心配される謂れはありません。兎に角! コレは没収します。あとその悪癖、治るまでしばらくキャンディ禁止」
「おまッ!? それこそお前にンなこと言われる筋合いはねーだろ!!」
 なおもぎゃーぎゃーと文句を言ってくるパートナーを無視して、バーナビーは手にしたそれに目をやる。どこで餌付けされたのかは知らないが、合成着色料のどぎついオレンジ色はお世辞にも身体には良くなさそうだ。
 バーナビーは指先で狐んだそれをしばらくじっと見つめた後、おもむろに自分の口に含んだ。
「ちょッ!?」
 お前今ヒトに食うなっつっといて自分が食ってンじゃねーかてかそれ俺のだろー!! という文句は完全に黙殺。
 ロの中に広がるのは合成甘味料の甘酸っぱい味と、それに絡みついた鉄錆の昧。
 こんなちっぽけなモノで勝手に傷をつけられるなどたまったものではない。
 絡み付く血の味など真っ平ごめんだ。
 味わうのなら、蕩けるような甘さと弱さと痺れるような苦味が良い。だから、コレは要らない。
 ――こんな飴玉一つになにをやっているんだろう、と思いながら、バーナビーは奥歯でそれを思い切り噛み砕いた。


















飴をガリガリするネタ。


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