○よいこのどうわ○















「鉄パイプちゃん」

 昔々あるところに、フェイトというそれはそれは可愛らしい男の子がおりました。
 フェイトはあんまり可愛らしいものですから、危ないおじさんやおばさんによく狙われてしまいます。なので身を守る鉄パイプをいつも持ち歩いていたので、いつしか周りから鉄パイプちゃんと呼ばれるようになりました。

 ある日、鉄パイプちゃんはマリアお姉さんからお使いを頼まれました。

「森に住んでるリーベルが風邪で寝込んでしまったらしいから、薬を届けてくれないかしら?」

 鉄パイプちゃんは、本当はリーベルがマリアお姉さんに来てほしいことを知っていましたが、お姉さんが反銀河連邦組織のリーダーというお仕事をしていて、とても忙しいことを知っていたので快く引き受けました。

「森は狼がいて危ないから、ちゃんと鉄パイプを持っていくのよ」
 なら自分で行けよと鉄パイプちゃんは心の中でツッコミましたが、決して口には出さずにお使いに出発しました。

 リーベルの家へ向かう途中には綺麗な花畑があります。鉄パイプちゃんはどんなに頑張っても想いの届かない可哀相なリーベルのためにお花を摘んであげようと花畑に寄り道することにしました。

 赤、青、黄色。白く小さなお花に、うすむらさきの大きなお花。色とりどりに咲くお花に、鉄パイプちゃんはすっかり夢中になってしまいました。

「おい、こんなところで何をしている」

 突然ふって湧いた声に、鉄パイプちゃんはたいそう驚きました。

 恐る恐る振り向くと、そこには狼がいました。
 陰る月と満ちる月を合わせたような毛並みがとても綺麗です。
 鉄パイプちゃんはほっと息を吐きました。

「お花を摘んでるんだ。病気のリーベルに持っていくんだ」
「お前…俺が恐くないのか?」
 平然と応えた鉄パイプちゃんに、驚いたように狼が聞きました。
「どうして恐いの?おおかみさんはとても綺麗で恐くなんかないじゃないか」
 狼は呆然と言葉をなくしていました。
 なぜなら狼は鋭いつめときばを持っていたので、皆に恐がられていたからです。
 恐がられるのは悲しいことでしたが、生まれたときからずっとそうだった狼は、それが当たり前だと思っていたのでした。

 狼は自分を恐れない鉄パイプちゃんを見て、狼は暫く呆然と鉄パイプちゃんを見つめていましたが、突然きょろきょろとなにかを探し始めました。
「どうしたの?」
 鉄パイプちゃんが尋ねても狼は答えません。

 やがて狼はなにかを鉄パイプちゃんに押し付けるように渡しました。
 それは、小さなお花でした。
「これ…?」
 鉄パイプちゃんが何か言いかける前に、狼はくるりと後ろを向いて立ち去ってしまいました。

 狼が去った後、鉄パイプちゃんはしばらくぼう、としていましたが、やがて我に返って手にある花を見つめました。  白くて小さい、かわいいお花でした。
 
 ですが鉄パイプちゃんは右手には鉄パイプを、左手には薬を持っているのでお花を持って歩けません。
 これではもらったお花を持って帰ることも、リーベルにお花を持っていくこともできません。
「これあげるよ」
 しかたがないので、鉄パイプちゃんは近くにいたモンジャラゴラの頭にお花を挿してあげました。



 リーベルの家の扉はうっすらと開いていました。
 鉄パイプちゃんは不用心だな、と思いながら、それでもおざなりに扉を叩いて中に入りました。
 マリアお姉さんに聞いていた通りリーベルは風邪を引いているのか、布団の中に頭まですっぽり埋まっていました。

「リーベル、お薬持って来たよ」
 声をかけると、布団がもぞりと動きました。どうやら起きてはいるようです。
 布団から手がちょいと覗いて、薬を頂戴と手招きしました。
 鉄パイプちゃんはそのおざなりな動作にむっとしながら、手に薬を乗せてやりました。

 ですが、その手は随分と大きいようです。鉄パイプちゃんは不思議に思って尋ねてみました。
「…リーベル、君の手はこんなに大きかったっけ?」
 すると、布団からくぐもった声が聞こえてきました。
「これはあなたを包み込め……ゲフゥッ、げふっ」
 なるほど確かに風邪は酷いようです。
「リーベル、君ってそんなキャラだったっけ…?」
「そ、それはリーダー、あなたを……って!!!」
 リーベルは布団からがばあっと勢いよく起き上がり、突然がしぃッ!と鉄パイプちゃんの肩を掴みました。
「ななななななななんでお前が来るんだッ!!!リーダーはッ!!リーダーじゃないのかぁぁあああ!!!!」
 リーベルは鉄パイプちゃんを力の限りがっくんがっくん揺さぶりました。
「そっ、そんなことっ、言われてもッ…!!」
 鉄パイプちゃんは必死で抵抗しようとしましたが、リーベルの勢いに押し負かされてしまいました。

 ちょうどそのとき家の外を、一人のクリフが通りかかりました。
 窓からは鉄パイプちゃんがリーベルにがっくんがっくんされているのが良く見えます。
「チッ!!」
 クリフは何を勘違いしたのか、鉄パイプちゃんを助けようと家の中に飛び込みました。
「悪いがそこまでだリーベル!」
「なっ、リー……クリフさんッ!?」
「今助けて……」
「うわああああ!!!」
 リーベルにがっくんがっくん揺さぶられたうえ、不意の闖入者に驚いた鉄パイプちゃんは持っていた鉄パイプを力の限り振り回しました。
 めきょぐしゃばきっっ!!!!
 鉄パイプちゃんが日ごろ手塩にかけてカスタマイズした鉄パイプ(ATK、DEF+30%×8)はものの見事にリーベルとクリフの頭を直撃し、二人はどさどさと倒れてしまいました。

「…何をしているんだ、お前は…」
「あ、おおかみさん!」
 家の戸口には先程の狼が呆れかえった表情を浮かべて立っていました。
「うわああああん!恐かったよぉぉぉぉ!!」
 鉄パイプちゃんは狼の姿を見た途端、それまでの緊張の糸が切れたのか、くしゃっと顔を歪めて狼に抱きつきました。
「お、おいッ…」
 狼は暫くうろたえたように手を彷徨わせていましたが、やがてぎこちなく鉄パイプちゃんの頭を撫でてやりました。
「……恐がるな。なにも恐いことなんかないだろう」
「うっ、でも、でも……」
 狼は内心これだけの実力を持っているなら本当に何も恐れる必要などないだろうと思っていましたが、口には出しませんでした。

「……これ」
 狼はなおもしゃくりあげている鉄パイプちゃんに、何かを渡しました。
「これ、って……?」
 渡されたのは、綺麗な綺麗な花束でした。
 先程渡された小さな花もありましたが、それよりも大きくて綺麗な花もたくさんありました。
「もしかして、これを作るのに……?」
 狼はふぃッとそっぽを向いてしまいました。
 狼は、鉄パイプちゃんに渡す花束を作るために、今までずっと森の中を歩き回っていたのです。
「ありがとう、おおかみさん」
 鉄パイプちゃんは満面の笑顔を浮かべると、ぎゅっと狼に抱きつきました。
 狼はやはりぎこちなく、ですが先程よりずっと優しい動作で鉄パイプちゃんの頭を撫でてやったのでした。



おわり。





「くそっ……オレたちはただダシにされただけかよ……」
「りぃいいいいいだぁああああ……」
 心なし点描を飛ばしている二人の足元で、あの神様すら倒した鉄パイプにやられ、それでもなんとかガッツで生き残った二人が切なく呻いていました。



今度こそおわり。










END





一度童話風の話を書いてみたくって試しにやってみたら案の定クリフが割りを食う話になりましたという(笑)
鉄パイプと、モンジャラゴラははずせませんでした個人的に(笑)あとクリフは固有名でなく職業のようです(笑)


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