もし、星に願う事能うならば。








○With Upon a Star○















「ちょっと使いを頼まれてくれないか?」
 ネルさんが僕にそう言ったのは、ゲート大陸がいよいよ夏に支配されてきた頃のことだった。
「この手紙を届けてほしいんだが、私は手が離せなくてね」
 最近ネルさんが殊に忙しくしていたのは知っていたから、僕は快く了承した。
 ただ……。



「……名前も顔も分からない人に渡せって言われてもなぁ」
 ぼやきながら、僕は小さくため息をつく。
 ネルさん曰く、「今日の夕方過ぎに、この場所に来るはずだから」……らしいが。
 指定された時間も、人物も、挙句渡された地図も随分あいまいで、僕は正直困っていた。
 地図の場所は『多分』この場所。広く空が見渡せる心地の良い丘だった。
 もう夏だというのに空は早々と夜の帳が下りてきていた。
「……夕方過ぎって、いつなんだろ」
 見たところ他に人影らしい人影はない。仕方がないのでもう少し待ってみることにする。
 することもないので、すっかり夜闇が包む空を見上げてみたり。
 ちらちらと星が瞬いている。
 もしかしたらあの輝きのどれかに、僕は降り立ったことがあるのかもしれない。
 もしかしたらあの輝きのどれかは、宙を翔ける者の宇宙船かもしれない。
 でも、もしかしたら……
 星は僕が見つめる間にも、その姿をどんどん闇へ散らしていく。
 もしかしたら、あの輝きのどれかは……
 ふ、と後ろの空を振り仰げば、そこは――
「――……!!」
 そこは、先ほど見た時には比べ物にならないほどの星が、星が、まさしく空を埋め尽くす勢いで、輝いていて。
 それは、喩えるならば、星の海。そうとしか言えなくて。
 もしかしたら、あの輝きのどれかは、昔の言い伝えみたいに、本当に願いを叶えてくれるものじゃないか、と思えるほどの、かがやき。
 天の川。
 遠く天に離された織姫と彦星が年に一度だけ出会うとき、二人を隔てる天の川はその時だけ願いを叶えてくれる。
 そんな言い伝え――昔話。
 僕らのいた世界ではあまりにも星が近すぎて、信じられなかった御伽噺。
 でも、この世界なら。
 星の輝きを近く感じて、宇宙の存在を遠く感じるこの世界なら。
 もしかしたら、願いを叶えてくれるのかもしれないと。
 そして僕が、この星に願っていいのなら。
 願うことが出来るなら。
 ねがうことは――



「……こんな辺鄙な場所で何をしているんだお前は」
 予想だにしていなかった人の声に、僕は驚き振り向く。
 星に見とれて、人が来ていることに気づかなかった。
 いや、そんなことより、その声……その姿は。
「…………アル、ベル……?」
「しばらく会わないうちに人の顔も忘れたか、阿呆が」
「……そんな」
 そんな訳ないだろう?
 だって、今まさに、僕は、君の事を――



「あら?」
 夜、シランドの城の空にも光が降り注ぎ、それをテラスで眺めていたネルは、親友とも相棒ともいうべき女性の声に振り返った。
「ん、どうかしたかい、クレア?」
「珍しいわね、星降る夜に貴女が此処にいるなんて。いつもなら丘に出ているはずでしょう?」
「まぁ、たまにはね」
 首をかしげるクレアに曖昧に答えながら、ネルは遠く丘のほうを見つめる。
 そんなネルをクレアは深く追求するようなことはしない。
「そう。それはそうと、ネル、フェイトさんを見かけなかったかしら?エレナ様が呼んでいたのだけれど、姿が見えなくて」
「フェイト?」
 ネルは少しだけ目を細め、微笑った。
「アイツなら……今、星に願いを叶えてもらってる頃だろうさ」










END





星の海、とゆー単語をどうしても入れたくって(笑)だってスタオだからね…!!
宇宙を駆け巡るRPGなだけに七夕ネタはかなり悩みますな。
御題→「携帯サイトで10のお題」様より


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