○あまのじゃく。○
「まったく！本当に困った奴だ、太陽は！！」
倉庫の中にエースの声が響き渡る。
明らかに怒気を含んだその声に、対話に混じっていないマシンロボたちは一様に肩を竦めた。
「エース、それは本当に太陽がやったのか？」
片手に格納庫掃除用の雑巾を持ったまま、憤慨しているエースの相手をしているのはファイヤーである。
「当然だ！あんなことするのは太陽以外にいない！」
怒りに険しい顔をしながら、エースはきっぱりと言い切った。
ここまできっぱり言い切られると、フォローのしようもない。
事の発端は、ほんの些細なことだった。
洗面所に放り出してあったタオルについて太陽と言い争いになったのだ。
まだほとんど使用していない清潔な白いタオルは、レッドウイングスのメンバーが、共同で――所謂「予備」として置いていたものだった。
きちんと自分のものがあるのだから、エースも太陽も、勿論鈴や海も普段は使用することがない。
もちろんその日も使わずに済む――はずだった。
だがそのタオルはあろうことか洗面所の排水溝の上に投げ捨てるようにして落ちていたのだ。
他の隊員がこのタオルを使うはずがない。
ならば太陽しか考えられない。
思案するまでもなくその結論に達したエースはそのことを太陽に注意した。
だが、太陽は「知らない」としらばっくれた挙句、「エースが忘れたんじゃないのか」とまで言い出した。
もちろんそんなことはありえない。 その結果――太陽と司令室で言い争いになり、教官から罰当番として格納庫の清掃を命じられたのだった。
「一言謝れば済むものを！しらばっくれて誤魔化そうとは！！」
雑巾片手に力説するエース。
「だが、本当に知らなかった、ということも…」
「ないなっ！」
にべもなく一蹴する。
「あんなことするのは太陽以外にありえないっ！」
言い切る。
そんなエースの様子を見て、マシンロボたちは顔を見合わせた。
どうも、エースと太陽はうまくいっていないらしい。
このままではレスキューに支障が出てしまうかもしれない。
マシンロボたちの思考回路が二人の仲を危惧していると、先刻から何か考え込んでいたエースが不意に呟いた。
「…………………って言ってるのに…」
その呟きはあまりに小さく、空に溶け入りそうなほど、か細かった。
「気を付けろ、って言ってるのに…
太陽は全然、わからないんだ…」
何をするか、隣でハラハラしながら見守る気持ちも。
危険の中に、一人で突っ込んでいく様を見ている気持ちも。
――いつでも想っている気持ちも。
「――全然、わからないんだ…」
呟きながら、自慢の金髪を手で掻き毟る。
普段のエースらしからざるその様子に、マシンロボたち全員が顔を見合わせた。
焦燥のような、苛立ちのような、そんな表情はめったに見せるような彼ではないのに。
それほどまでに。
伝わらない想いがある。
どうすれば、この想いは伝わるのだろう？
「気になるか、太陽のことが」
いつもと違うエースを心配したか、声をかけてきたのは太陽をロボマスターに持つマシンロボ、ジェットだった。
「ああ、気になるね」
問いに対し、さらりと答える。
「あんな直情暴走バカ、気にならないわけないだろ？同じチームなんだから、なおさらさ」
本当はそれだけじゃないけれど。
「確かに、太陽は少々先走りする傾向があるな」
ファイヤーがエースの意見に同意する。
「レスキュー隊員としての資質はあるのだから、その部分さえどうにかなれば、良いロボマスターになると思うが…」
…どうしてなかなか辛辣なことを言うマシンロボである。
「それは太陽も分かっているだろう」
自身のロボマスターを弁護するジェット。
「だが、分かっていてもすぐに直ると言う訳でもないだろう。
それに逐一言い募られたのでは、太陽とて気が滅入る」
「ふむ…押すばかりではなく引くことも肝要だと、そう言いたいのか」
「そういうことだ」
なにやらさらに話を進めるマシンロボたちをよそに、エースは一人考えていた。
――押すだけじゃなく引くことも肝要か。
思えば太陽とは事ある毎にいがみ合って、落ち着いて話し合うこともなかった気がする。
たまには一歩引いてみても、いいかもしれない。
レスキューについては自信があっても恋愛についてはまだまだ未熟だから。
少しづつでもいいから成長していこうと、そう思えるのだ。
もっとも、彼がもっとスマートに恋愛できるようになるのは、もう少しだけ先の話。
next.taiyoh-side?
好きなんだけど、中々素直に表現できないんです。ということにしてください。（超懇願）
あー上手く書けないって辛い。キツイ。
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