年末であろうが年始であろうが、事故は起こるし事件は起こる。天災人災というものはどうやら年中無休であるらしい。全くもって迷惑な話ではあるが。
「……………………」
 そして今、帝人はその事実を痛烈に実感していた。
「や、帝人君。おかえりーそーだよねー正月なら帰省してるよねー甘楽ちゃんうっかりうっかり☆久々の実家はどうだった?」
「……正直訊いてもあんまり意味がなさそうなんですけど……なんでいるんですか」
「そりゃ正月だから。挨拶回り。ていうか俺の質問は無視?」
「他人の家に勝手に上がり込む挨拶回りなんて初めて聞いたんですけど」
「帝人君が知らなかっただけじゃないの?」
「……」
 さらりと言われてしまえば返す言葉もない。ああそうだ、この人に僕の常識は通用しないんだった。
 肩から掛けたボストンバッグが正直重い。それ以上突っ立っているのが辛くなって、仕方がないと帝人は部屋に入ると臨也の前を横切りバッグを放った。
「乱暴だねぇ」
「疲れてるんで」
「帰ってきたらほっとした?」
「むしろ疲れが倍増しました」
「酷いなぁ。年明けから俺の顔が見れて疲れも吹っ飛びましたー、ぐらい言ってよ」
「じゃあもう一度言います。むしろ疲れが倍増しました」
 にべもなく言い放つ。帰る途中で買ってきたペットボトルの蓋を開ける。煽る。清涼飲料水の薄っぺらい味が口の中を漱ぎ、そして嚥下。ようやく一息ついて、帝人は改めて部屋に居座る不法侵入者に目をやった。
「……で、何しに来たんですか、臨也さん」
「姫始めに」
「…………」
「あれ聞こえてない?それとも意味がわかんない?つまり、俺が帝人君を」
「いいです言わなくて結構ですッ!!」
 思わず投げつけたペットボトルはあっさりかわされ、すぐ後ろの壁にぶつかりめこっと妙な音を立てて転がった。エコタイプのペットボトルでなくて良かったと思う。同じように投げつけたりしたら割れてしまいそうだ。
 ごろ、と転がったペットボトルを臨也が拾い上げた。
「酷いなー帝人君。こういうモノ投げちゃいけないって教えてもらわなかったの?」
「不法侵入者にモノを投げつけてはいけない、とも習いませんでしたけどね」
「さっきから不法侵入不法侵入って言うけどさぁ。俺はちゃんと鍵を使って玄関から入ってきたよ?窓を破ったわけでもドアを壊したわけでもない」
「その合鍵だって勝手に作ったものでしょう……」
 かみ合わない会話にため息。疲労感と空腹感。食べ物の買い置きはあっただろうか……そこまで考えて、ふと背中に感じた気配に顔を上げた。
 見上げた視線の先に整った顔が薄く笑みを浮かべている。手には先ほどのペットボトルを持ったまま。
「……なんですか」
「だから、言ったでしょ?姫始め」
「そういうことは風俗に行ってください」
「えー何言ってんの、俺は帝人君としたいの。ていうか何?帝人君は俺が風俗に行っちゃってもいいとか思ってるわけ?」
「それは……」
 思わず口ごもってしまう。別に意図があっての言葉ではなかっただけに、改めて自分の言った言葉の意味を考えて顔が赤くなった。
「やっぱり顔に出てる、帝人君正直ー。だからさぁ帝人君、しよーよ」
「っ、それとこれとは話が別ですっ!僕は、遠慮しますっ!」
「帝人君が遠慮しても俺が遠慮する気ないし。そもそも俺がしたいから来たんだし」
 する、と腰の上に感触。反射的に帝人は伸ばされていたその手を払い叩く。
「どういう理屈ですかそれっ!兎も角、ダメです!拒否します!」
「えー新年早々折角ここまで来た俺の意思は無視なわけ?」
「当然じゃないですかっ!勝手に来て勝手なこと言ってるだけの人の意見は聞きませんからっ!」
「太郎さんってばひどいですぅー」
「シナ作っても駄目!というか、気持ち悪いんで止めてくださいッ!」
「やだ。ねー帝人君ねーねーやろーよーねー」
 ばっさり、切り捨ててもなお帝人から離れようとしない臨也に、
「っ、好い加減に、してくださいッ!!」
 とうとう帝人の堪忍袋の緒が切れた。
「それ以上うるさくしたらホントにしませんよッ!?蹴ってでも追い出しますからねッ!?」
 ともすれば本気で実行に移しかねない帝人の言葉に、だが臨也の反応は帝人の思っていたものとは違った。
「――ふぅん?」
 今までの駄々をこねた子供のような態度から一変、すぅ――と目を細め、逆に子供をからかう悪い大人の相貌で帝人を見下ろす。
「それじゃあ――」
 光の加減で深紅に染まる双対が、黒目がちな少年の瞳を射抜く。
「大人しくしたら、してくれるの」
「え」
 その言葉の意味を掴みかね、一瞬帝人が呆けた声を上げた。その瞬間。
 ぱしゃんッ、と頭から何か冷たいものが降ってきた。
「っ!冷たッ……」
 目に入りそうになって慌てて手で拭う。薄っぺらい甘味料の匂いが鼻腔を擽る。これは、先刻帝人が臨也に投げつけたペットボトルの中身だ。
 髪を伝って半透明の液体が首に背中に流れていく。服がベトついて気持ちが悪い。
「何するんッ……んんッ!!」
 文句を言おうとして、言葉を紡ぐはずの唇が塞がれる。抵抗。だがそれも一瞬のこと。蹂躙される痺れが甘く脳裏を焦がしていく。
「ッ……!っふ……は、ぁッ」
 身を捩るようにして甘い痺れから逃げる。離れていく互いの唇の端を透明な糸が伝う。伸ばされた細い指が唇からソレを掬い、もう片方の唇へと運んでいく。
 帝人は思わず目を逸らした。冷たく甘い雫が額を伝う。
 その雫もすぐ唇で掬われた。
「……い、臨也、さっ……!」
 やめて、と声を上げようとして戦慄いた唇を人差し指が遮った。
 驚いて目を遣ると、きらきらと紅い輝きを宿す瞳が笑みを象ってこちらを見ている。
 形の良い唇が、音にならぬ言葉を紡いだ。
 ――うるさくしなきゃ、してくれるんでしょ?
「っ、そういう、意味じゃ……!!」
 ない、と反駁しようとして、その言葉の続きごと食べられてしまう。そうすれば、残るのはただただ甘く、苦い――
 ペロ、と首筋に流れ滴る雫を舐め取りながら、臨也がそっと呟いた。
「イタダキマス」
 ――食前のあいさつはしっかりと。
















ピクシブログ。
ついったで年末に流れていた「23歳児ごろんごろん臨也」が結果的にこうなりました。…アルェー?
すまない…流れ的にごろんごろんは書けなかった…流石に書けなかった、力不足だ…orz
そしてひめはじめとか言ってンのに寸止め^q^これがアタシの限界である


BACK





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送