要するに臨也さんは、甘やかしたがりで甘えたがりなんだと思う。



 しゅ、しゅ、しゅ、と、小気味良いリズムが耳朶を打つ。
 それに合わせて触れる指先がこそばゆく、思わず反射的に帝人は指を引っ込めた。
 途端、
「こら、だーめ」
 ぽん、と後頭を小突かれ、引っ込めた指が再び伸ばされた。
 帝人は恨めしげな表情を浮かべて、ジト目をすぐ後ろ――帝人を抱き込む格好で、指先を掴んでいる臨也に向ける。
「……仕方ないじゃないですか、くすぐったいんですよ」
 だが、ジト目を向けられた本人は大仰に肩を竦めると、
「そんなこと言って、動かれたら皮膚削っちゃうでしょ。困るのは帝人君だよ?」
 などと言ってくる。
 それに帝人はますます険の入った目で睨みつける。睨みつけるだけで他に何もしないのは、身動きがとれないからだ。
「そもそも、僕、爪の手入れしてくれなんて頼んでないんですけど。わざわざヤスリで削らなくったって、切れば充分じゃないですか」
「俺がイヤなの」
 帝人の反論は一言の元にばっさり切り捨てられた。
「折角かわいー指なんだからさぁ。それに深爪したら形悪くなるし、メンドくさがってばちばち切っちゃう方がわかんないよ俺」
「別に形にこだわりないですから」
 邪魔でなければいいのだ。
「ちゃんと手入れした方がかわいーのに」
「かわいくなくて結構です」
「ふぅーん……?」
 わざとらしい声に、あ、何かイヤなこと考えてるな、と直感する。突発的な言動が読めないのは相変わらずだが、それでもこういう時のイヤな予感は外れない。
 大分読めてきたというか、何というか。
「そっかぁ、わかった。実は帝人君、指先触られただけで感じちゃうタイプなんだ?」
 言うと、やおら掴んでいた指先を自分の口元に持っていく。そして、中途半端に削っていた爪をなぞるようにしてぺろ、と舐めた。
 突然の行動に帝人の顔が真っ赤に染まる。
「んなッ!」
「ああほら、やっぱり?」
 わかりやすい反応に気を良くしたか、臨也は更に他の指にも赤い舌を絡ませる。
 ざらり、とした感触に帝人が顔をしかめた。
「そんな事っ、」
「ホントにぃ〜?」
「ッ」
 楽しそうに指先に舌を這わせる臨也に、帝人は思わず裏返った声で叫んだ。
「そんなワケ、ないじゃないですかッ!」
「じゃあ別にいいよねぇ?ちょーっと大人しくしててもらえれば、俺がキレーに手入れしてあげるって、言ってるだけなんだし」
 帝人君には何の損もないはずだけど?
 すました笑顔で言い切られてしまえば、帝人に反論の余地はない。
 帝人はぐっと押し黙った。
 別に、こうやって構われるのは嫌いじゃない。寧ろ、ちょっと嬉しいとすら思ってしまっている。
 くすぐったいのだって、少し我慢すればすむことだし。
 けれど、臨也の行動を手放しで受け入れられるほど、帝人は彼に心酔しているわけでも彼のことを信用しているわけでもなかった。
 相変わらず、臨也の言動は読めない。それでも、行動パターンというべきものは大体わかってきたと思う。
 基本的に、自分に利のない行動はしない。相手の利となる行動には常に代償を求めるのが、折原臨也という人物だった。
 だから、何の見返りも求めない、何の意味もないこの行動が、ある意味怖い。いよいよ何を考えているのか、わからない。
 帝人は小さくため息をつくと、考えていても仕方ないと疑問をぼそ、と口にした。
「……なんで手入れなんかしたがるんですか」
「んー、俺が手入れしたいから?」
「だから、なんで僕の爪なんか手入れしたいんですか」
「だってその方が楽しいじゃない」
 何が楽しいのかがわからないんですけど!
 思わずそう切り返そうとして、本当に楽しそうな表情を浮かべている臨也の顔を見て、吐き出そうとした言葉をため息に変えた。
 そして改めて、臨也に背中を預ける格好で座り直す。
「……さっさと終わらせてくださいっ」
 身動きとれなくて、これ結構辛いんですよ!
 怒ったような口調で言うと、頭の上辺りからくつくつと笑い声がした。
「はいはい」
 帝人が素直になったことに機嫌を良くしたか、臨也は今度は鼻歌交じりに帝人の爪の手入れを再開する。
 しゅ、しゅ、しゅ、と、再び小気味良いリズムが耳朶を打つ。
 楽しげな鼻歌を聴きながら、帝人は何となく、このよくわからない行動の意味を理解した気がした。
 ――要するに臨也さんは、甘やかしたがりなんだ。
 甘やかしたがりで、そしてそれ以上に甘えたがりなんだと思う。それはきっと、自分から甘えることに慣れていないからなんだろう。
 構われ方がわからないから、構う。
 甘え方がわからないから、甘やかす。
 まだお互い甘え方も、構い方も、――引き際も、わかっていないけれど。
 まあそれはおいおい理解していけばいいか、とひどく楽観的に考える。
 そして小気味良いリズムに引きずられるようにして、帝人はゆっくりと目を閉じた。



















俺様、キー打つときに爪が触るとイラッ☆とするタイプです。で。
そろそろ爪切るかー→そーいややすりもあったな→アニデュラ思い出す→何となくシチュが思い浮かぶ→どうしてこうなった\(^q^)/←今ココ
たぶん二人は付き合いたてぐらいだ。たぶん。
しかし…どうしてこうなった\(^q^)/


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