汲み取って、愛情って、所謂信頼関係さ
最悪だ。
ああ最悪だ、最悪だ、最悪だ!
時計を見ながら悪態を吐く。約束の時間は午後3時。現在時刻は午後4時。1時間オーバー。明らかにアウト。
ああ、くそっ!
カツカツと、苛々した態度を隠すことない踵の音がエレベーターホールに響く。9、8、7、6、……降りてくる時間がヤケに長い。わかっているそれは気のせいだ。それでも苛々は止まらない。思わずガツンと壁に靴跡をつける。磨かれた薄灰色に黒い跡がつく。
らしくないと冷静な自分が自分を嘲笑う。約束のひとつやふたつ、破ったって別にいいんじゃないの?
実際今まではそうだったし、それで文句を言うのは相手の心が狭い証拠と切り捨てた。それで終わり、それで済むはずだったのに。
きっとあの子も同じように渋い顔をするんだろう。「遅いじゃないですか」なんて歯に衣着せぬ言葉で文句を連ねてくるのが思い浮かぶ。
でも、だって、仕方がないよね?俺だって付き合いってものがあるわけだし、それが粟楠会、お得意様なら無碍にも出来ないわけで。
まあ間に合うだろうとタカを括っていた部分はある。まさかここまで長引くなんて、予想外だったよと笑いながら言えば済む話。
急な仕事が入っちゃったんだ。単純明快、至極正当なわかりやすい言い訳。それで納得するかどうかは知らないけど、まあ所謂一般的な、悪く言えばヒネリもなければ面白味もない言い訳。はっきり言えばつまらない言い訳。だがいくらつまらなくっても今は他の――特に他の子を構ってましたとか、そういった類の、いつもからかい半分に口にするような――冗談を、言うつもりは毛頭なかった。
まあ、そのつもりがあったとしても、伝えられないんだけど。
いつものジャケットのポケットに突っ込んだ手が空を掴む。
そこにあるはずの携帯がない。
粟楠会
(
クライアント
)
の所に居た時には既になかったから、恐らくオフィスに置き忘れてきたのだろう。普段なら複数台持ち歩いている替えの携帯も今日はなし。ありえない失敗だった。
もしすぐ連絡がつく状態だったなら、迷うことなく通話ボタンを押していただろう。そして今他のオンナノコと一緒なんだよねーとか、今君と遊ぶ気分じゃないからとか、冗談半分からかい半分の言葉を使って電話の向こうの少年の反応で愉しむことが出来たはずなのに。それが今の俺の特権、俺だけの愉しみだったはずなのに。
別に、その愉しみがなくなったからって、俺の生活に支障が出るわけじゃない。別に明日だって構わないし、はっきり言って、なくたって構わない。
たかだか1日連絡がつかなくなる程度。
たかだか1回約束を反故にする程度。
今までの俺にとってはその程度だったハズなのに。
なのに、この苛々は、焦りは、焦燥はなんだ?
たった数時間声が聴けないだけで、たった1回約束を破ったその程度で、たった1日会うことが出来ないだけで!
全くもってらしくない。ああ本当に、俺らしくないったらない。
こうなった責任は、是非にも取ってもらわないとねぇ?
ああ、けど、今はそんなことはどうでもいい。
今は一刻も早く、ただ声が聞きたい。
らしくないと冷静な自分が自分を嘲笑う。いつの間にかここまでのめり込んでいたなんて。
5、4、3、2、エレベーターのカウントダウン。
開いたエレベータに飛び込んで、忙しなくボタンを押す。
あの声が聞けるまで、もう少し。
ケンカして、呆れて、それはお互いの愛情を試す試練
街に流れる恋愛ソング。言われなくてもわかってる、そんな事。
それでも呆れてしまうのは、仕方ないんじゃないかと思う。
時計を見ながらため息をつく。約束の時間は午後3時。現在時刻は午後4時。1時間オーバー。あわせて1時間10分の待ちぼうけ。まだこの街に来たばかりの頃は物珍しかった公園も、今はもう隅々まで見知っていていっそ見飽きてしまった。
相手が時間にルーズなのはいつものこと。ルーズどころか約束を破るのもいつものこと。寧ろ約束なんてあって無きが如く。いつも気まぐれで掴みどころがなくて。それでも毎回約束の時間に待っている自分は馬鹿なんじゃないかとすら思う。
それでも、いつもならそろそろ携帯が鳴ってもいい時間なのに。
いつもなら携帯が鳴って、渋々出れば悪びれた様子のない声が受話器越しに聞こえてきて、タチの悪い冗談を言って僕の反応をみてからかって、……散々怒らせたその後に、埋め合わせをするみたいに突然現れて、いっそ過剰なくらいのスキンシップで触れてきて……そして、最後にまるで戯れの延長みたいに好きだと囁くのだ。
それなのに、それがいつものパターンなのに。
左手に握った携帯を見る。此処に来てもう何回目だろう。10回を超えてから数えるのをやめた。
ディスプレイはいつもの待受画面。着信なし。メールなし。音沙汰なし。こちらからの連絡も5回のコールで留守電サービスに転送。
いわゆるひとつの音信不通。
――ふと胸に過ぎる一抹の不安。
もしかして、もしかしたら。
今日ある時突然に、本当に飽きてしまったとか。
有り得ないことじゃない。
いつだって気まぐれで掴みどころがなくて、飽きてしまえばすぐ切り捨ててしまうのを知っているから。
そしてその時の反応を見て愉しんでいることを知っているから。
――何度からかい半分にタチの悪い冗談を聞くハメになったことか!
そのたびにこっちは心臓に悪い思いをしているというのに、もしかしたらまた今日もこっちがそわそわしている様子を見てにやにや笑ってるんじゃないだろうか、そんな気がしてくる。
ああ、なんだか腹立ってきた。
次に顔見たら、絶対文句言ってやる。
汲み取って 愛情って 信じ合ってればこわいもんなんて無いさ
不意に携帯が震えた。
「っ」
慌てて通話ボタンを押す。ディスプレイは見ていない。専用の着信音は相手が誰かを明確に教えてくれていたから。
『……もしもし?帝人君?』
「……はい、もしもし。何ですか」
『……怒ってる?』
「別に。怒ってませんよ。臨也さんが約束破るのなんて、いつものことですから」
『……ごめん』
「何ですか、いきなり?」
『ごめん、ホントにごめん。俺が悪かったよ。だから……』
「だから?」
『もう少しだけ、待ってて。会いたいんだ、今すぐ』
「――……」
そのまま電源ボタンを押す。無機質な電子音。けど耳に残っているのは低くて心地よく響く、今はどこか切なさを秘めた声。
はあ、とついたため息が一瞬だけ白く染まってすぐ消えた。
1時間15分。待たせておいて今更会いたいから待っててなんて、なんて都合のいい人なんだろう!
やっぱり顔見たら絶対文句言ってやろう。
もう一度。ため息をついて公園のベンチに座る。ため息はやっぱり白く染まってすぐ消えた。
鏡なんか見なくてもわかる。
今の自分はきっと耳まで真っ赤に染まって、すぐに消えやしないんだろう。
どうかあの人が来るまでに消えていますように。
互いの声を耳元で聞くまで、あと少し。
angelaさんの曲をリスペクトという名のオマージュ(おま この曲個人的に好きです。可愛くて。
そしてなぜソレを臨帝で書こうと思った自分…。キャラ崩壊、性格崩壊、別人過ぎて笑えない。一体全体どうしてこうなった。
こう、ね、たまには可愛いレンアイもいいんじゃないかって思っちゃった過去の自分をとりあえず殴ってくr
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