目覚めると、そこに猫が居た。



「にゃあ」
「…………」
 墨を溶かしたように真っ黒な体毛、深く吸い込まれそうな蒼い色彩の双眸。
 ぴんと立てたひげを誇らしげにひと撫でして、その猫は小さく鳴いた。なんのひねりもなく、だがしっかりと。
 ――なんで、猫?
 ――つーかなんで、人の腹の上に乗ってるのかな。厚かましい。
 寝起きのジト目でその猫を睨みつけながら、わざとらしくゆっくりと身を起こす。
 臨也の腹の上(正確にはその上に掛けられていた毛布の上だが)に乗っかっていた猫はその拍子に転げ落ちそうになり、慌てて布地に爪を立てる。
「にゃあー」
 かりかりと何とか体勢を立て直し、どこか恨みがましげな視線を向けてくる猫を臨也は鼻で笑った。
「何?勝手にヒトの部屋に侵入りこんでる方が悪いんじゃないの?」
 過去自分が似たようなことをしていることについてはスルー。
 寝起きで乱れている髪を手櫛で梳いて、そしてふと思いつき、そのままその手を今だじっとこちらを見つめている猫へと伸ばした。
 猫は人馴れしているのか、逃げる様子はなかった。
 そっと頭を撫でてやれば、気持ちいいのか目を細め。そのまま今度は喉を撫でると、ぐるぐる、と小さく喉を鳴らす。
 なんとはなしに猫を撫で続けながら、我ながら珍しい行動だと幾分眠りから醒めた頭で考える。
 平素の自分であれば、問答無用で払い落としていただろうに。
 自分の興味対象、観察対象はあくまでヒト、人間である。その行動を観察する為に動物を嗾けたこともあったような気もするが、それにしても自分から構うようなことはなかったというのに。
「……にゃおん」
 撫でられるのが気持ちいいのか、猫が小さな声で鳴いた。
 それに思わず口の端が歪む。
「甘えたって、エサなんかないよ」
 言いながら、撫でる手は止めない。
 艶やかな黒の毛並みが指の間を滑る感覚が心地良い。
 猫はされるがまま、時折尻尾をぱたりと振っている。それ以外はあまり微動だにせず、だが時折臨也の触れる指にくすぐったそうに首を振った。
 その仕草が何かに似ていて。そして、ふと気付く。
「……ああ、帝人君そっくりなんだ」
 黒髪を指で梳く感覚、くすぐったそうに首を振って、こちらを見上げる双眸。
 だから、手を伸ばしたのかもしれない。
 にゃあ、と猫がその言葉に答えるように小さく鳴いた。
 今更何を言っているの、とでも言いたげな声だった。
 ふっと目を細めて、猫に問う。
「ねぇ、君、ホントに帝人君だったりして?」
 そんなはずはないとわかっていても。
「にゃあ」
 答えは果たしてどちらか。
 もしかしたら、そんなことも在り得るのかもしれないと思ってしまう。

 夢の中であれば。



「――っ……」
 目が覚めるといつもの部屋だった。
 当然、猫など居るはずもなく。
「……まあ、夢だよね……当たり前か」
 億劫そうに身を起こし、夢の中と同じに適当に手櫛で髪を梳く。指先に猫を撫でた感覚が残っていた気がした。
「……なんであんな夢見たかな……。俺、もしかして欲求不満?」
 自嘲気味に呟く。傍から見れば間抜けだろうが、本人は至極大真面目である。
 最後に会ったのは何時だっけ。髪を撫でたのは。あの目を正面から見つめたのは?
 考えたら、たまらなく逢いたくなった。馬鹿馬鹿しい、と眠りから醒めた頭がそんな思考を嘲笑うけれど。
 それでも一度湧いた衝動は止まらない。
 ベッドから降りて、背筋を伸ばし。
「あーあっ、帝人君今頃何してるのかなぁッ!」
「呼びましたか?」
「ッ!!!?」
 突然背後から掛けられた声に驚き振り返る。
 そこには、
「どうしたんですかびっくりした顔して。こっちがびっくりしますよ」
 不思議そうな顔をした帝人が立っていた。
 かくん、と小首を傾げ、こちらを見上げる。
「え、いや驚くっていうか……帝人君、なんでこんな所にいるの」
「何でって、当たり前じゃないですか」
 小さく笑みを浮かべて、当然のように答える。
 こちらに向けられた笑み、その目が先ほど夢に見た猫そっくりで――
 いや。そうじゃない。
 帝人『が』、猫『に』そっくりなのだ。
 何故なら。
「……帝人君さぁ、なんで猫耳なんて、つけてるの……」
 小首を傾げる帝人の頭についているモノ。
 黒くてふわふわしたそれは見間違いようもない、猫耳というヤツだった。
「何でって」
 帝人がすっと目を細めた。
 あの猫そっくりに。
 そして、小さく呟いた。

「にゃあ」



「――っ……!?!?!?」
 今度こそ、目が覚めるといつもの部屋だった。
 当然ベッドの上に猫も居なければ振り返った先に帝人が居る訳でもなく。
 思わず乾いた笑いが漏れる。
「……はは、何俺夢中夢とか見ちゃってんの、もしかして本気(マジ)で欲求不満?」
 それにしても、意味がわからない。
 何で猫?何で猫耳?
 ある程度制御できていたはずの思考回路が全くもって意味不明な思考を紡いでいる事態に苛々が募る。
「……あーマジで意味わかんないし。なんかムカつくからシズちゃんからかってこよう。帰りに帝人君で遊んでこよう。うん、そうしよう」
 気を取り直し一日の予定を立てそれを実行に移すためにベッドから降りようとして――その手が何かに、触れた。
 ほんのりと暖かく、柔らかい……毛並み。
 ……毛並み?
「――え、まさか」
 まさか、まさかまさか?
 ソレが何であるかを確かめるために、そっと毛布を除ける。
 そこに居たのは、紛れもなく――

「にゃあ」
 墨を溶かしたように真っ黒な体毛、深く吸い込まれそうな蒼い色彩の双眸と、目が合った。
「…………」
 そして、更に気付く。

 その更に向こう、毛布の中でもぞもぞ動く何かが居ることに。

「――いや、そんなまさか」
 だが現実は想像を裏切らない。
 もぞ、もぞと動く毛布の奥から、小さな声が聞こえてきて、いよいよその想像が現実味を帯びる。

 果たしてこれも夢なのか。はたまたこれこそが現実か。

「……あれ、おはようございます……」
 眠そうに目をこすりながら、帝人がふにゃりと笑みを浮かべた。



 奇妙な夢は、まだ続くのだろうか?


















世間一般様では「いい夫婦の日」ですが俺は敢えて「いいにゃんにゃんの日」を選ぶぜっ!(キリッ)
しかしぬこをテーマにしただけで中身とオチが揃って消息不明になるとかどういうことだい…俺はただぬこをいじくりまわす話が書きたかっただけなんだ…信じてくれ
ホント別人ですんません。全員が。ホントに。いやホントに。
























以下10分で考えたどうでもいい設定。
・猫は臨也が拾ってきました。理由:帝人っぽかったから
・帝人と臨也は同棲中@多分2、3日くらい前から(ここで「いい夫婦」を拾おうとしていたらしい)
・最初は夢、次も夢、最後は現実
・ボケてンのは酒でも入ってたんじゃないですかね(適当)
・タイトルはジョジョではない
・ミクの「Mrs.Pumpkinの滑稽な夢」をもじって、そこから適当に。
・中身は全く違いますけどねにこーっ!




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