「……君、帝人君、起きなよ、ついたから」
「……つい、た……?」
 帝人はうっすらと目を開けた。
 フロントガラスの向こうには夕闇に染まるビルの群れが見える。
 隣で臨也がにっこりと笑みを浮かべた。
「おはよ、帝人君。もう夜だけど」
「おは……?」
 とりあえず身を起こそうとして、シーとベルトで身体が固定されていることに気付く。
 そうかここは車の中なのだ、とぼんやりとした頭で考えて――
 突然がばぁッッ!!と勢いよく身を起こした。
「って、どこですかここっ!?いきなり薬盛ってこんな所に連れてきて、一体何考えてンですかッ!!」
「まあまあ、落ち着きなって」
 臨也が帝人の肩をぽんぽんっと叩く。
「とりあえず降りよっか。そうすればわかるよ、いろいろと」
 促されて、渋々車を降りる。
 その先にあったのは――
「……遊、園地……?」
 帝人は呆然とソレを見上げた。
 目の前にはキラキラ輝く大きな門。その奥にはカラフルな小屋のような建物が並び、路の先に川か、運河のようなものが見える。掛けられた橋の向こうには、メリーゴーラウンドや大きな観覧車が煌びやかに輝いているのが見えた。
 海が近いのか、冷たい風が頬を撫でる。
 すっと隣に並んだ臨也が帝人の手を引いた。ごく自然な動作で。
「行こう、帝人君」
「えっ!?」
「遊んでこーよ」
「ちょ、ちょっと待っ……!!」
 そのままささっと歩き始めた臨也に手を引かれながら、後ろを慌てて着いて行く。
 門をくぐった先も煌びやかにキラキラと輝いていて、帝人は思わず感嘆のため息を漏らした。
 薄闇にライトアップされた路が美しい。建物はカラフルな装飾が施され、ただ眺めるだけでも充分に心が弾んだ。
「ホラ帝人君、お化け屋敷があるよ!お化け屋敷!!」
「えつちょッ!?なんで入る気なんですかッ!?僕は嫌ですよッ!!?」
「大丈夫大丈夫怖くないってホラ」
「怖くないお化け屋敷ってアイデンティティー崩壊してますよねソレッ!!!?」
 帝人の叫び声は夕暮れの空に溶けて消えた。





「いやー遊んだ遊んだ!遊園地で遊ぶとか、何年振りかな!普段は遊んでる人間で遊ぶほうが楽しいけど、たまにはこういうのもイイねぇ」
「……元気ですね、臨也さん……」
 臨也がいかにも楽しげに、そして帝人が少々疲れた声で答えた。
 運河沿いに設けられたレストスペースである。そこで運河の手すりに寄りかかって笑い声を上げている臨也の横で、帝人は小さくため息をついた。その手にはぬいぐるみやらキーホルダーやらが詰まった袋。
 文字通り『堪能した』臨也による戦利品だ。
 強引に帝人を連れて行った臨也は、嫌がる帝人を引っ張って強引にお化け屋敷に入るわ(そして中のお化けを散々からかって出てきた)、クレープ屋の屋台を見かければ楽しそうにソレを買い求め(そして食べるのは帝人の役目だ)プライズコーナーに入れば片っ端からゲームを試したりと実に自由奔放であった。
 それにつき合わされている帝人のほうは正直たまったものではなかったのだがそれでも臨也が余りに楽しそうに振舞うものだから、ついついこちらまで楽しくなってきてしまう。
 先の会話が脳裏に蘇る。
『ハイ、あげる』
『え、でもこれ取ったの臨也さんで』
『帝人君に貰って欲しいから取ったんだよ』
 そう言って笑った顔はいつも以上に無邪気で。
 ――目が逸らせなかった。
 例えそれが彼の本質ではないとわかっていても。
 それでも、そんな顔を見せてくれるのは自分にだけだと信じたいから。
 きっと、こんな気まぐれにわざわざわかっていて付き合うような人間も、自分だけだとわかっているから。
 わかっていても。自分から離れることが出来ない。
 それどころか、もっとずっと一緒に居たいとすら思ってしまう。
 そんな自分はきっと充分狂っているのだと感じながら、帝人はもう一度小さくため息をつく。
 そして、先程から思っていた事を口にした。
「……それで、臨也さんは何で急にこんな所に連れて来たんですか?」
 だが、帝人の問いに対する答えはない。
「――……?」
 怪訝に思いもう一度口を開こうとして、その唇を臨也が人差し指でそっと押さえた。
 『黙って』のサインにますます怪訝な顔をする。と、不意に臨也が運河の向こうへ目を遣った。
 つられて帝人もそちらに目を向け――

 その瞬間。

 ふっ――ッと、全ての明かりが消えた。
 驚きに小さく息を呑み――

 そして。



 ――Ave Maria, gratia plena,
 Dominus tecum,
 benedicta tu in mulieribus,
 et benedictus fructus ventris tui Jesus.
 Sancta Maria mater Dei,
 ora pro nobis peccatoribus,
 nunc, et in hora mortis nostrae――



 観覧車が。
 ジェットコースターがー。
 メリーゴーラウンドが。
 コーヒーカップが。
 バイキングが街路樹がフェンスが建物がそしてそしてそして――



 ――Amen――

「――わああッ……!!!!」
 運河沿いの路が、流れるように光を帯びていく。
 それはまるで、観覧車の鉄片から光の洪水が溢れ出したかのよう。
「――すごいっ……!!」
 黒瞳がちの目に七色の光を映して帝人が声を上げる。
「すごいッ!!すごいですよ、臨也さっ……!!」
 言葉は途中で掻き消えた。
 何故なら。

 全てを言い終える前に、黒い影にすっぽりと抱きしめられてしまったから。
「――これを」
 帝人の耳元で、臨也がそっと呟く。
「これを、見せたかったんだ。一緒に、見たかったんだ。だから」
 キラキラと、七色に煌く光が夜闇を照らす。
 光は水面にも反射する。たゆたうように、ゆらゆらと。
 闇に浮かぶ、夢幻の世界。
 ――なんて不器用なんだろうと思う。
 いきなり連れてきて、散々連れ回して。全てはその裏に隠していたモノを隠すため?
 ああ、なんて、なんて――
「臨也さん――」
 小さな小さな、今にも消えてしまいそうな声で呟く。
 飾らない、けれど心に煌いて消えてくれない言葉を。
「――大好き」
 ――さあぁッ――と、光の洪水が流れ、更にその色彩を変えていく。
 淡い(オフホワイト)から、深い真紅(カーマインレッド)へと。
 抱きしめられた腕が、ぐっと強くなる。
「――愛してるよ」

 目まぐるしく色彩を変えていく光の海の中で。
 その言葉が、永遠に変わらないことを願った。


















みなとみらいに遊びにいく→遊園地のイルミネーションを見る→周りリア充しかいねぇ(^q^)→リア充爆発しる→その時ネタ神が降りてきた!←今ココ
因みに本文中の歌詞はアヴェ・マリア(ラテン語詞)。ここはネタ的にハレルヤ(イザヤ書)にでもしてやれば良かったかもだが、歌詞が見つからなくて諦めた(笑)


BACK





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送