ケーキバイキングにて。





「さあ皆の者、俺が生まれたことを存分に祝うといい!ハッピーバースデーィディア俺!」
「紀田君それ自分で言ってて寒くない?」
 のっけからテンションの高い正臣に、いつもどおり冷静なツッコミを入れる帝人。
 二人がいるテーブルには大小色とりどりのケーキが皿の上に所狭しと並んでいる。いわゆるケーキバイキングというやつだ。
 ちなみに彼らの向かいに座っていた杏里は、今は席を外しており荷物だけがそこに残されている状態である。
 正臣がやれやれといわんばかりに大仰に肩を竦めてみせた。
「ふっ、そんなこと言って……知ってるんだぜ、帝人も杏里も本当は俺の誕生日を祝いたくて仕方なかったってことは」
「そりゃ、あれだけ自己主張されたら祝わなきゃって思うよね、普通」
 ため息混じりにガトーショコラを口に運ぶ。
 何せ朝登校するなり開口一番「よっし今日はケーキ食いに行くからな!予定空けとけよ!」とのたまったのである。
 帝人が思わず挨拶も忘れて「何で?」と突っ込んでしまったのも無理からぬことと言えるだろう。
「そんなシャイな二人のためにこの俺がわざわざ『祝!正臣おめでとうプラン』を立ててやったんだ、感謝しろー」
「いや……自分の誕生日を自分で企画するってどうなのそれ」
「それに学生一人暮らしで苦しいだろう帝人のことを思って、前々から誕生日プレゼントは要らんと宣言してただろーが!」
「だからってケーキバイキングのおごりってのも、どうかと思うよ」
 ガトーショコラの最後のひとかけらを口に放り込んで、改めて辺りを見渡す。
 平日の午後なだけあってか割と空いており、今座っている四人掛けのこの席もすんなりと案内してもらうことができたのだが。
 目に付く客は女性ばかり。男性客もいるにはいるが、はっきり言って店員のほうがよっぽど数が多いだろう。
 その方が、正臣としては嬉しいのかもしれないが。
 まあ折角の誕生日なんだし、たまには好きなようにするのもいいか……と思いなおす。帝人の誕生日の時はどうやって持ち込んだのか、学校の屋上でホールケーキやらプレゼントやらを広げて祝ってもらったのだ。何だかんだいって、それは嬉しかったわけだし。
 数ヶ月前の出来事を思い出し、しっとりふわふわのレアチーズをフォークで切り分けながら、帝人がぽつりと呟いた。
「でもやっぱりケーキだけじゃなくて何か用意すればよかったかな」
 朝から幾度となく繰り返された呟きに、正臣もその度に返した言葉を繰り返す。
「だーかーら、いいって言ったのはそもそも俺なんだから、気にすんなっつーの」
「でも、僕の誕生日の時には紀田君からもらってるわけだし……」
 もごもごと呟く帝人に、正臣はフルーツヨーグルトをかき回しながらむぅ、と唸り声を上げる。そしてしばし何か考えていたかと思うと、ぽん、と小さく手を打った。
「ンじゃ、ソレやめるってことで」
「それ?それって何?」
「その『紀田君』っての」
「え、何?それ」
 意味わかんない、と眉をひそめる帝人に対して、正臣は大きくため息をつくと、噛んで含めるように言う。
「あのなぁ帝人、俺とお前は親友だよな?」
「え、うんまあ、一応ね」
「一応とか言うなよ一応とか。こうやって誕生日だって祝う仲じゃないか。なのに俺は思うわけだよ、お前のその他人行儀な呼び方はなんだ?と。この距離感はなんなんだ?と。まるでまだ友達になったばかりの小学生の頃みたいじゃないか!」
「いや実際昔からそうだったし」
「昔は昔!今は今!そうだろ?この間お前もひとつ歳を取り、そして今日は俺がまたひとつ歳を取った!大人の世界へまた一歩、ランナップザステアーズなわけだ!だというのにいつまでも昔を引きずっていたら足を取られて先に進めなくなってしまう!いいのか帝人!?この先には俺たちのまだ見たことのないR‐16な世界がめくるめく広がっているというのに!」
「いやだから、意味わかんないって」
 一息に捲くし立てる正臣を胡乱な顔で見遣る。
 聞いている間律儀にケーキを口運ばずにいたフォークは、代わりにぐしぐしとレアチーズを無残な姿に変えていた。
「それに大人と呼び捨てとどう関係あるのさ」
「……まあ、要するに、だ」
 意味わかんないよ、と幾分疲れた顔で問う帝人に、正臣はまるで、まだ家に帰りたくないと駄々をこねる子供のような表情を浮かべて、言った。
「せっかくまたこうやってツルんでるのに、その呼び方はアレだ、ほら、さびしーだろ」
「――……」
 何だかさっぱり要領を得ない答えではあったが、それでも何となく、言いたいことはわかった気がした。
 要は、何となく他人行儀でさびしい、と言っているんだろう。そしてそれを直接言うのがなんとなく恥ずかしいから、色々言って誤魔化しているのだ。
 普段は自分をリードして歩く正臣のそんな子供っぽいような一面に、帝人は思わず小さく笑ってしまう。
「?なんだよ」
「なんでもないよ。ええーと……じゃあ」
 少しだけ上目気味に、具合を確かめるように小首を傾げる。
「……まさおみ?」

 ぶちん。

 呼ばれた正臣の中で、何かが音を立てて切れた。
「っ心の友よーッ!!!!」
「わっちょっ抱きつかないでよッ!!」
 思わずがばっと抱きついた正臣に慌てた帝人がじたばたと暴れる。
 そして――
 ケーキの載った皿を持って戻ってきた杏里は、そんな二人の行動を見てしばらく呆然とした後、ぽつっと小さく呟いて微笑んだ。
「……二人とも、仲、良いですよね」




















2010年正臣誕生日記念で出した無料配布ペーパー正帝。とりあえず、苗字呼びから名前呼びに変わった経緯を書きたかったのよ。



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