「っ……」
 不意に指先に走った痛みに、帝人は顔をしかめた。
 見ると、右手の人差し指にうっすらと赤い線が浮かんでいる。どうやら揃えていた紙で指を切ってしまったようだった。
「ん?どうしたの?」
 テーブルの向かいでモバイルPCを操作していた臨也が顔を上げる。
「いえ、ちょっと紙で指、切っちゃったみたいで」
「どこ?見せてごらん」
 言われるがまま指を差し出す。臨也は怪我をした指を手に取ると僅かに眉をひそめた。
「結構深くいってるね。痛くないの」
「いえ、切ったときはともかく、今はそんなに」
「ホントに?ああ血が出てる」
 指先についた裂傷からうっすらと赤い血が滲む。傷口の端にぷくりと膨らんだ赤い玉を見て、臨也はなんの躊躇いもなくその指をぱくりと口に含んだ。
「っンなッ!?」
 突然の行動に帝人が裏返った声を上げる。驚いた拍子に、ばさりと揃えかけの書類がテーブルの上に派手に散らばった。
 折角揃えたのに、と思う暇もあらばこそ。続いて指先で立てられた湿っぽい音に思わず背筋がぞくりとする。
 見ると――ちゅっ、ちゅ、と濡れた音を立てて、臨也が指先についた血を、舐めている。
「……あ、あ、ちょっ、あの臨也さんッ!!!?」
「んー?」
「いきなり何をッ……っつ……!」
 文句を言おうとしたその矢先。
 濡れた指先に、傷とは別種の痛みが走る。
 刺さるような痛みに帝人は思わず悲鳴を上げかけた。
 ぷつっ、と、何か厭な音がしたようなそんな錯覚を覚える。次いでざらりとした感触。舌だ、と脳がそれが何かを理解したときには、指はようやく口元から解放されていた。
 見れば、ただの裂傷だったはずの傷口に噛み跡がついている。噛まれた箇所から血が流れ、纏わりついた唾液をじわりと赤く滲ませていた。
 流石にこれにはむっときて、帝人は目の前のすました顔を睨みつける。
「……人の傷悪化させて、何、したいんですか一体」
「うん、ちょっと血をね」
「血って……」
 ちょっと待っててバンドエイド持ってくるから、そう言って立ち上がった臨也の背を、帝人は呆れた表情で見つめた。
 出逢ってから、こうして付き合うようになってから、まだ数ヶ月も経っていない。だから仕方ないのかもしれないけれど、時折見せる子供のような言動に帝人は常に振り回されっぱなしだ。
 果たして救急箱を手に戻ってきた臨也はいかにも楽しそうな笑顔を浮かべており、いけしゃあしゃあと言ってのける。
「ごめんねー。美味しかったから、つい」
「美味しいって、何が」
「帝人君の血」
 ……。
 ――帝人は一瞬きょとん、とした顔をしたあと、ひょいひょいと指の治療を始めた臨也にジト目を向けた。
「……吸血鬼じゃないんですから」
「うん、俺実は吸血鬼なんだよね」
「臨也さん、その手の冗談は面白くないです」
「ホントだって。俺は本当は吸血鬼で、人間に紛れて暮らしてるんだよ」
 運び屋だって人間じゃないだろう?と問われ、憮然とした面持ちでそうですけど……と答える。セルティを例に出されてしまえば反駁のしようもないのだが、いまいち釈然としない。
「じゃあ何で人間のフリなんてしてるんですか」
「それはいつも言ってる通りだよ。人間に興味があるから。人間が好きだからさ」
 おどけた物言いに、帝人は呆れた表情を浮かべて、ああ、と呟いた。
「そう言って、騙した人の生き血を啜ってるんですね?わかりました」
 茶化すような帝人のその態度に、だが対する臨也は酷く真剣な眼差しを帝人に向けた。
「してないよ」
「え」
「知ってる?吸血鬼に血を吸われると、その人間は血を啜られたときのその快楽から逃れられなくなる」
 すっ――臨也の目が細められる。
 光の加減で深い赤の色合いを宿す光彩が、射抜くように帝人を見据えた。
「だから」
 治療を終えたばかりの指先が持ち上げられ、今一度そっと唇に触れる。
「俺が血を啜るとしたら――一人だけって決めてるんだよね」
 それは、まるで何かを誓う仕草にも似て。
「っ……それ、って」
 唇に触れられたままの指先が疼くように熱いのは、果たして気のせいだろうか。
 指先から頭の奥まで、じりじりと痺れるように熱を帯びたこの感覚を、自分は知っている――ような気がする。
 それは――

 ――と。
 射抜くように帝人を見据えていた瞳に、一転して悪戯っぽい光が宿った。
「……って言ったら、信じた?」
「〜って、やっぱり嘘なんじゃないですか!」
 顔を真っ赤に染めて怒った声を上げる帝人に、いかにも愉しげな笑い声が重なる。全く悪びれた様子もない。
「情報屋なのに、そんなに嘘ばっかりついてどうするんですか!」
「んーまあ流石に吸血鬼ってのは嘘だけどね。でも帝人君、ちょっと信じたでしょ?」
「う……」
 言われて思わずぐっと押し黙る。悔しいが、少なからず信じてしまいそうになったのは事実だ。
 顔を赤くしたまま黙ってしまった帝人に、臨也も流石に悪いと思ったか「ごめんごめん俺もちょっと本気だったから」と苦笑を浮かべた。
「本気って……嘘つくのに本気になるって酷くないですか」
「そうは言うけどね、嘘はまずついた本人がそれを信じないと。でないと誰も信じないでしょ。それよりもさ、せっかくだし――そのまま少し信じてみない?」
「は?信じるって、何を……」
「例え嘘だって分かってても、それが『いかにも』『らしければ』――本当になっても、おかしくないよねぇ……?」
 すいっ、と、二人を遮るテーブルから身を乗り出して臨也が帝人に迫る。
 不意を衝かれて動けない帝人の、薄い首筋に鼻先が寄せられ。
 ふわりと撫でた吐息の熱さに思わず帝人の身体がびくり、と反応した。
 この感覚、この熱さを、知っている。
 じりじりと痺れるように、甘いこの感覚は。
「っ、……い、ざや、さ――?」
 そっと触れた唇、覗かせた犬歯を白い肌に突き立てて。
 愉しげな声が、耳朶に響いた。
「……病みつきになるかもよ?」
















2時間でどこまで出来るか書き殴るテスト。結果:迷走しました
脳内プロットと着地点が大分違うのですがこれはどういうことなの^q^
おかしいなぁ、最初は点描が飛びそうなくらいの…おまいら新婚か!ぐらいのアレな雰囲気になる予定だったのに…おかしいな!

ちなみにフェレンゲルシュターデン(現象)というのは、猫が時々何もないところをじっと見つめている現象のことです。


……というのは真っ赤な嘘です
さも本当のことのように平然と嘘をつく、という様を今回のネタに引っ掛けたつもりだったのですが、これも大分外してますね。アイタタタ。

このイタイ駄文はAさんに捧げ逃げますッ!シュタッ



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